日伊同舟

イタリア最大のCovid 19被害地、ロンバルディア州ベルガモ県の道路を昨夕、荷台を幌で覆った10台近い軍用トラックが列を作って通りました。

荷台に積み込まれた荷物は全てCovid19被害者の遺体です。ベルガモ県内の墓地も火葬場も受け入れ限界を超えたため、隣接のエミリアロマーニャ州まで運んで火葬されることになったのです。

Covid19によるイタリアの死者は3月19日AM6時現在、前日から475人増えて2978人。1日あたりの死亡者数はまたもや新記録となりました。霊柩車では間に合わず、また民間トラックには文字通り荷が重過ぎる任務なので、イタリア陸軍の出動となったのです。

イタリアの惨状は、もはや欧州全体のそれになりつつあります。イタリアに続いてスペイン、ドイツ、フランスの主要国が厳重な移動制限・封鎖体制を敷きました。

また小国のスイスの感染者数も激増。それに続いて、感染者数の多い順にオランダ、オーストリア、ノルウエー、ベルギー、スウェーデン、デンマークが危機に陥り、最小のデンマークの被害者数も1115人と節目の1000人を越えました。

また、EU(欧州連合)を離脱したばかりの英国は、「例によって」唯我独尊の精神を発揮して、まずイタリアが、そして前述の独仏スペインなどに始まる国々が、イタリアをなぞった施策を実行していくのを尻目に、学校閉鎖もしない、大小の各種イベントも禁止しない、国民に自宅待機も呼びかけない等々の方針を宣言してきました。

強気の英国のジョンソン首相を、気でも違ったのではないかと批判する声が多い中、筆者はそれらの方針を打ち出した英国の「科学的また論理的」な思考法を舌を巻く思いで見つめ、ひそかに応援もし、日々監視してきました。

筆者には英国のやり方が正しい、と自信を持って言うことはできません。またイタリアほかの国々も英国に倣うべき、とも思いません。だが、英国にはわが道を進んでいってほしい、とは思っています。なぜなら厳しい封鎖・移動制限策を取る欧州大陸各国が、Covid19の撃滅に成功するかどうかは誰にも分からないからです。

一方、英国の独自路線は、イタリアほかの国々が犯した、あるいは犯しているかもしれない失敗や不備を徹底的に研究分析して打ち出されたものです。学校閉鎖をしないのは新型コロナウイルスがインフルエンザと違って子供を直撃しないからであり、イベントを禁止しないのは外の広いスペースよりも自宅などの狭い空間の方がウイルスに感染しやすいという分析であり、自宅待機を呼びかけないのは、感染がピークに達する頃に、人々が自宅監禁に疲れて外に繰り出す危険を考慮した結果です。

冷静且つ論理的な分析には説得力があります。むろんそれを実行に移すのは困難です。ウイルスが人から人へ爆発的に伝播していく現実を前に、人混みに入るな、自宅待機をしろ、と国民に呼びかけずにいるのは政治的にほぼ不可能にさえ見えます。だが、ジョンソン首相はそれをしようとしました。

その勇気は見上げたものです。また、英国のやり方は、もしかすると欧州大陸各国の施策が失敗に終わる悪夢が到来したときに、人類を救う希望になるのかもしれません。生物多様性であろうとなかろうと人の多様な行動は、従って国家間の多様なあり方も、決して悪いことではないのです。

言うまでもなく英国は、欧州大陸の流儀が正しい、と将来証明されたときには、手ひどいしっぺ返しをこうむることになります。そうなったときには、EUを核にする欧州は必ず英国に救いの手を差し伸べるでしょう。逆に英国は、繰り返しになりますが、欧州大陸を救う道筋を示しているのかもしれないのです。

と、そんな具合に思いを巡らしてきましたが、ジョンソン首相が18日、英国全土の公立学校を20日から閉鎖し、私立の学校も政府の決定に従うようにと勧告しました。首相はついに政治的な圧力に耐え切れなくなったのでしょう。多くの人々が、ようやく英国もまともになった、と胸をなでおろしているのが見えるようです。だがそれが朗報であるかどうかは、今は誰にも分からない。筆者は個人的には残念な思いを禁じ得ません。

筆者はイタリアの感染爆心地、ロンバルディア州内に住んでいるため、Covid19に関してはイタリアの様子を主体にブログなどで報告を続けていますが、今書いたように英国ほかの世界の国々や日本の状況も逐一追いかけています。筆者はひとことで言えば、日本の様子がイタリアと全く同程度に心配です。情報隠蔽という言葉はさすがに当たらないでしょうが、日本は意図的かそうでないかに関わりなく、情報をぼかしているようでひどく違和感があります。

日本のウイルス感染者数が少ないのは-実際にそうであることを祈っていますが-やはりウイルス検査の数が少ないことが大きな理由なのではないか。イタリア、また欧州各国並みに検査を増やせば、感染者数が急激に多くなるということは本当にないのでしょうか。

世界の混乱と緊張を真摯かつ的確に感じ理解することができない日本の政治家らが、この期に及んでもオリンピックの開催に固執して、世界の感覚とは相容れない空気の読めない言動に終始しているのは、中止に伴う莫大な経済損失に目がくらむからでしょうが、もうそろそろ誤魔化しは終わりにするべきです。

欧州のような急激な感染爆発はないものの、じわじわと感染が増えている現実は、隠れた感染が進行していることを意味してはいないのか。突然の大規模流行、いわゆるオーバーシュートの危険はないのか。日本政府はせめて、“オリンピックは「延期」もやむなし”と内外に宣言して、Covid19の日本社会における真実を解き明かし、国民の健康を守るために死に物狂いで動くべきではないでしょうか。

オリンピックは日本一国だけではなく、世界中がコロナウイルスから解放されていなければ開催できません。また逆に世界がコロナウイルスを撃滅しても、日本が遅れてそれの餌食になるようなら、開催など夢のまた夢です。それどころか国民の大半が、今現在のイタリア・ロンバルディア州民のような苦悩の中に突き落とされないとも限りません。

日本とイタリアは敵対国ではない。従って両国の関係を呉越同舟という言葉でくくることはできません。また両国の感染状況も今のところ天と地ほどの違いがあります。だが筆者の目に映る日本とイタリアは、新型コロナウイルスとの戦いという観点では、同じ船に乗り同じ運命に身をゆだねている、いわば「日伊同舟」の存在にしか見えません。


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