コロナウイルスでは花は枯れない

2020年3月8日AM8時現在のイタリアのCovid19死亡者は233人。感染者の総数は5883人に上ります。それは韓国に次ぐ世界3番目の数字ですが、死亡者数は韓国よりも多い。

感染の拡大が止まないことを受けてイタリア政府は、ロンバルディア州全体とその近隣の北部の州のうち、14県の封鎖・隔離を決定しました。

合計約1600万人の住民が4月3日まで居住地域からの移動を禁止され、違反者には3ヶ月の禁固刑が科されることになりました。

ロンバルディア州内に住む筆者も州境を超えての移動ができなくなりました。

住民の移動制限ばかりではなく、封鎖地域内では大学を含む全ての学校、体育館、プール、博物館、スキー場、ナイトクラブ等々が閉鎖され、結婚式や葬式を始めとするあらゆる宗教儀式も禁止されます。

レストランや喫茶店などは午前6時から午後6時まで営業してもよいとされますが、客席は最低1メートル以上離して設置しなければなりません。

とはいうものの、住民はできるだけ自宅に留まり、特に75歳以上の高齢者や65歳以上の病弱者は外出を控えること、と強く要請されています。

高齢者が敢えて名指しで注意を喚起されるのは、イタリアのCovid19死亡者が群を抜いて多く、しかもそのほとんどが老人であること。またイタリアが欧州で最も高齢化の進んだ社会である現実があるからです。

封鎖地域内に閉じ込められたとはいうものの、筆者の暮らしにはそれほどの変化はなく、隔離されたという実感もまだありません。

それはおそらく封鎖域がイタリアでも最大級の、且つ人口も1000万人以上になる、ロンバルディア州の全体であることが理由なのだろうと思います。

もしもそこが一昨日初めて感染者が出て、今日までに3人に増えた筆者の住まう小さな村がその対象であったならば、きっと強い閉塞感に見舞われていたことでしょう。

加えて実は筆者は、2月から3月にかけて日本に帰る予定でした。そのために今の時期のスケジュールはほぼ空白になっていて、移動計画などもありません。だから余計にプレッシャーを感じません。

しかしながら普通に働き活動している人々にとっては、移動制限を始めとするさまざまな日常生活の規制は、大きな犠牲を強いられるものだろうと思います。

はからずも今日3月8日は女性の日。イタリアでは女性に黄色いミモザの花を贈って祝います。だがCovid19騒ぎでどこもかしこもそれどころではない様相です。

それでも春の息吹はあたりに充満していて、日差しもけっこうまぶしく暖かい。ブドウ園に隣接する筆者の家の庭にも、白色ピンクの木蓮の花が咲いています。

また窓から望む前アルプスの山々(南アルプスへと続くイタリア北部の連山)も、頂はまだ雪に覆われているものの、木蓮に注ぐ光と同じ暖光に包まれて、春の精気を発散させています。

コロナウイルスは花を枯らすことはできません。季節の行く手を阻む力もありません。それどころか、輝かしい春の陽光に焼き尽くされて、あるいは消滅してしまうかもしれない。

たとえ消滅しなくても、花の香と季節の活気を味方につけた人々の知恵が、必ずそれを撃滅することでしょう。撃滅すると信じて隔離封鎖の不便を受け入れていこうと思います。

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正念場か、イタリア

2020年3月5日AM7時現在、イタリアの新コロナウイルス感染者は3089人。COVID-19による死亡者は107人に上昇。 これは過去24時間で28人が新たに死亡し587人の新規感染が確認されたことを意味します。

ここ数日は感染者は毎日およそ500人単位で増え続け死者の数も多い。どちらも不安な傾向ですが、実は治癒した人もこれまでに276人と増えてはいます。少しの朗報かもしれません。

感染はついに筆者の住まう人口約1万1千人の村(※1)にも及んで、昨日村で初めてのCovid-19患者が出ました。いつかこうなるかもしれないと予想していましたから、やっぱり、という思いと、まだ信じられないという思いとが交錯する暗うつな心境を持て余してます。

筆者の住む村から封鎖されているロンバルディア州の感染爆心地までは、直線距離で50キロメートル余り。すぐそこと形容してもいい近さですが、ここまで普段通りの生活をしてきているため緊迫感はありませんでした。しかし居住地域内に患者が出たことで少し状況が変わり始めました。

村での感染者発生のニュースを追いかけるように、封鎖されている北部イタリアの11自治体に課されているルールを全国にも適用する、と先ほど政府が決定しました。そのせいで事態の深刻さをあらためて思い知らされた気分にもなっています。

全国に適用するルールとは即ち、大学を含む全ての学校の閉鎖、図書館や博物館などに始まる公共施設の公開規制や閉鎖、イベントや集会の禁止、レストランやカフェやバーなどの閉鎖または営業短縮など、など。

また人との挨拶の際に握手やハグや頬へのキスを避けるように、という要請も政令に盛り込まれました。さらに人と会う時には1メートル以上の距離を置き、75歳以上の高齢者や持病のある65歳以上の人は外出を控えること、ともしています。

少しばかげたように見える条項まであるそのガイドラインは、COVID-19に取り憑かれたイタリアの必死の思いがてんこ盛りにされているようで、少々悲しい。だが人々は、真剣に政府の要請に応えようとしているような雰囲気が感じられます。

昨日、スーパーを巡って飲食物の買出しをしました。店はどこも平穏そのものでした。筆者が「感染爆発」と形容している集団感染が明らかになった直後の24日にも同じような行動をしました。その時は幾つかの店の精肉売り場に異変がありました。製品棚が空だったのです。

それは週末の感染爆発騒ぎに不安を覚えた人々のパニック買いの結果のように見えました。が、よく考えてみるとこの国には、金曜夜から日曜日の間に食料を食べ尽くした人々が、週明けの月曜日にどっと買い物に出る習慣があります。ですから先週目にした肉売り場の異変は、その習俗も重なっての現象だったのではないか、と静かな店内を見回していまさらながら思ったりしました。

ついでに県庁所在地の街まで足を伸ばしました。車で20分ほどの距離です。中華食材店で豆腐を買おうと思ったのです。しかし豆腐はありませんでした。新鮮な豆腐は火曜日と金曜日にミラノから運ばれます。だが金曜日にもまた前日の火曜日にも配達がなかったとのこと。むろんCOVID-19が原因です。

店は閑散としていましたが、以外にもイタリア人買い物客が2,3人いました。中華食料品店は普段でもあまり込み合うことがないので静寂は気にならなかったのですが、店員が皆マスクをしているのが印象的でした。イタリアも他の欧米諸国と同じで人々がマスクを付ける習慣はありません。COVID-19騒動でさすがにそれを付ける人は増えましたが、基本的に異物扱いで敬遠されます。

店員の中国人たちは、多人数の客に接するので防御のためマスクを付けているのでしょうが、いつもとは違って胡散臭く感じたのは、こちらの心理の微妙な波立ちのせいだったのでしょう。ちなみに筆者を含む客は誰もマスクを付けていませんでした。

じわじわとあたりの空気が淀んでいくようないやな気配がイタリア中に漂い始めています。COVID-19はまだ良く得体が知れずワクチンもありません。それがいやな気配の正体ですが、冷静にしていれば近い将来必ず平穏が戻るに違いない。だが人々の不安は消えません。

不安感があたりに暗いものを呼び寄せています。そうした中、人々の心に明かりを灯すような出来事もありました。COVID-19の蔓延を受けて休校となったミラノの高校の校長が、社会の現状を過去のペスト流行時の恐怖になぞらえて、「デマに振り回されることなく冷静に行動するように」と学校のホームページを介して全校生徒に語りかけ感動を呼んでいるのです。

ペストは過去に繰り返し欧州を襲った疫病です。14世紀の流行では欧州の人口のおよそ半分(3割~6割と学説に幅があります)が死滅し、世界では1億人が死亡したとされます。イタリアでは人口の8割が死んだ地方さえあります。校長先生は、ペストに襲われた17世紀のミラノの混乱とパニック、また恐怖を描いた小説を引き合いに出して、デマや妄想や集団の狂気に惑わされることなく普通に日々を送りなさい、と生徒を鼓舞しています。

校長はまた、現代の医学は14世紀や17世紀とは格段に違って進歩している。それを信じて休校のあいだ理性と秩序に基づいた生活を送り、読書をし、また機会があれば散歩に出かけて日々を楽しみなさい、とも言います。それでなければペスト(即ちCOVID-19)が私たちを打ち負かしてしまうかもしれません、と締めくくりました。

今イタリアに、また日本に、そして世界に求められているのは、まさにこの校長の主張する「デマに惑わされず冷静に普通に社会生活を送ること」です。それができれば、さらなる感染の拡大でさえ「恐るるに足らず」と構えていられる、と確信を持って思うのはおそらく筆者だけではないでしょう。


※1 イタリアには市町村という名称はなく、自治体は全てComune(コムーネ=コミューン)と呼ばれます。ローマやミラノなどの大都市も人口数百人の小さな集落も全て同格のComune(自治体)です。筆者は自身の住まう田園地帯のComuneを勝手に「村」と規定しています。

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自主規制

2020年3月5日AM7時現在、イタリアの新コロナウイルス感染者は3089人。COVID-19による死亡者は107人に上昇。 これは過去24時間で28人が新たに死亡し587人の新規感染が確認されたことを意味します。感染者は毎日およそ500人単位で増え続け、死亡者の数も多くなっています。

筆者はこのブログを含むSNS上で、イタリアのCOVID-19関連情報を発信してきました。その際、新型コロナウイルスに対する不安を象徴的に表すような絵を敢えて使ってきました。それはウイルス禍が速やかに消え去ることを信じつつ、恐怖に押し潰されないように殊更にそれを笑い飛ばす、という意味合いを込めての投稿でした。

しかしながら日伊を含む多くの国々での感染拡大は止まず、むしろ加速する状況です。残念ながら犠牲者も増え続けています。そうした中では筆者の記事の絵の意図が伝わり難くなっていると感じます。それどころか、見方によってはあるいはそれを不謹慎と感じる方もいるかも知れません。

そこで、将来COVID-19が克服されて世の中が明るく平穏になるまで、行過ぎて不安を煽るように見えるかもしれない絵をいったん削除し、別の絵に置き換えることにしました。ご了解を願います。

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止まらないイタリアの武漢化

2020年3月1日AM8時現在のイタリアの新型ウイルス感染者は1128人。このうち死者は29人。多くは基礎疾患のある高齢者です。また治癒した者は50人。なお感染者1128人にはこれらの治癒者も含まれます。

治癒した人々を除いてもイタリアの感染者数は千人を越えました。相変わらず中国、韓国に次いで世界3番目の感染者数です。

また、数字は週末初めのデータなので、日曜日の今日の実際の感染者数はさらに増えていると考えられます。それは月曜日に明らかになるでしょう。

ちなみに今この時の世界中の全ての感染者数は86983人。このうち中国本土の感染者数は79824人、韓国が3526人、日本はクルーズ船関連を除いて241人です。

イタリアの新型コロナウイルス感染者数は、2月21日から22日にかけて、それまでのわずか3人から229人へと爆増しました。北部ロンバルディア州の小さな町で集団感染らしいケースが発生したのです。

イタリア政府は即座に町とその周辺自治体を封鎖しました。警察と軍隊が出動してのシビアな動きです。非常事態を通り越して戒厳令の様相さえ呈していました。

またイタリア政府はそれ以前の先月末、中国での新型ウイルス感染爆発が明らかになるや否や、世界でいの一番に中国便を全面禁止にしました。その動きは中国を激怒させると同時に世界を驚かせました。

その素早い決断は、主としてパンデミックへの恐怖からなされたものでした。イタリアの果敢な措置は、ウイルスをシャットアウトするのに有効と見えました。ところがそのときには既に遅く、イタリアには中国発の新型ウイルスが多く侵入していた、という状況であったようです。

それがロンアバルディア州での感染爆発になりました。そればかりではありません。厳しい封鎖措置で同地域からの感染拡大は阻止されているはずなのに、感染は場所を選ばずに広がっています。そのことがウイルスの以前からの深い侵入また浸透を表しているように見えます。

なぜ欧州の多くの国の中でイタリアがあっけなくcovid-19の巣窟になってしまったかを考えると、筆者はどうしてもイタリア政府の失策を指摘せざるを得ません。

イタリア政府は2019年3月、低迷する経済へのテコ入れを主な理由に中国の「一帯一路」への支持を表明。そこからさらに一歩踏み込んで、G7国として初めて中国政府と連携する旨の覚書を交わしました。

「一帯一路」構想に対するEUやアメリカなどの警戒感に不安を抱いていた習近平政権は欣喜雀躍。イタリアとの友好を急速に且つ強力に推し進めました。結果、中伊の関係は深まりヒトとモノの往来が急増しました。

イタリアは欧州の他の観光大国をあっさり追い抜いて、中国でもっとも人気の高いヨーロッパの訪問先となり、中国人観光客も急激に増えました。その結果イタリアは、フランス、スペイン、イギリスなどの観光人気国を尻目に、Covid-19にも深く愛される国になってしまった。。

今のところ筆者のこだわるところを指摘する論者はイタリアにはいません。あえて言えば、ミラノの生体医療専門家が、新型コロナウイルスは遅くとも1月半ば頃にはタリアに侵入していた可能性が高い、と主張していることぐらいです。

さらにそのことに関連して、新型コロナウイルスは中国では昨年の12月ではなく、夏の終わりから秋口にはすでに蔓延していたかもしれない、と言い出す医療専門家もいます。たとえそうだとしても、恐らく中国は永久にそれを認めることはないでしょうが。。

だがイタリアに新型コロナウイルスが早い時期から侵入していたかどうかについては、今後調査研究が深まる過程で明らかにされる可能性があります。いうまでもなく今重要なことは、感染拡大の終息であって、ウイルスの襲来時間の解明ではありませんが。

イタリアにウイルス感染が拡大した不幸は、あるいは単純にイタリアが安全対策を怠ったことが理由なのかもしれません。あっと驚くような優れた部分と、間の抜けただらしない面を併せ持つのが、イタリアという不思議の国です。

世界で初めて中国便をシャットアウトするような危機管理能力の高さを示す一方で、破れた網で新型コロナウイルスを一網打尽にしようとでもするような、杜撰な防御策があるいは実行されたのかもしれません。その答えは遠くない未来に必ず明らかになることでしょう。


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