この期に及んでの権力の不正直

新型コロナウイルス関連では毎日のように世界記録が樹立されています。去った4月2日にも大きなものが2つ出ました。

一つ、世界の感染者数がはじめて100万人に達しました。この記録は今こそ驚きですが、1ヶ月もすればかわいい懐かしい数字に見え、1年もするとバカバカしく低い数字に見えるほどに、感染者が世界中で溢れかえっている可能性があります。

一つ、アメリカの1日あたりの死亡者が1169人となって、スペインの前日の世界記録932をあっさりと破りました。この項目ではイタリアがダントツのトップで毎日のように記録を塗り替えてきましたが、数日来スペインがイタリアの地位を奪って記録更新を競う勢いになっていました。

今後はアメリカが1日あたりの死者数の記録を伸ばし続けそうです。アメリカもいつかはどこかの国に抜かれるのでしょうが、その頃には世界はどれほどの傷を負っているのでしょうか。世界がまだ生きていれば、の話ですが。。

イタリアの全土封鎖・ロックダウンは間もなく一ヶ月になります。一方日本は、感染者数が4000人に迫ろうとする今日も、十年一日のごとく感染爆発の瀬戸際にいると言い、医療崩壊の危険が迫っていると壊れたレコードのように反復し続けています。

安倍首相をはじめとする政府の権力中枢の頭の中はいったいどうなっているのでしょう。もはや緊急事態宣言を出して新型ウイルスの猛攻に備えるべきなのに、感染拡大防止をめざして全世帯に布マスク2枚を配布するという、今となってはほとんどブラックジョークにしか見えない策を大真面目で言い出す始末です。

そのことに関しては、文章を練っていてはとても間に合わないと感じるので、筆者はSNSでとりあえず次のように発信しました。

お~いニッポン!お前はいったいどこにいるんだぁ~?火星か?地球か?火星にいるなら今のまま行け。地球にいるなら地球人のやり方で新型コロナに対峙しろ~

ロックダウンも視野に入ったと明確に国民に告げつつ厳重な外出禁止令を発動しろ~経済のロスは取り返せるが、国民の命は取り返せないぞ~

マスク散布は以前なら上等な政策だった可能性があるが、今となってはベニヤ板の壁で巨大津波を止めるようなものだ~

コロナをやっつける独創的なアイデアがあるならいいが、ないのならさっさと緊急事態宣言を出して殺人コロナと戦え~~~


筆者の正直な思いです。この週末も東京や大阪を始めとする自治体が外出を自粛してほしいと住民に呼びかけていました。が、悠長な外出自粛ではなく、少なくとも東京だけでも外出禁止令を出して死に物狂いで感染拡大を抑え込みにいくべきです。ぐだぐだと理由をつけては決定を先延ばしにしている場合ではありません。

まだオーバーシュートに至っていない、という言い訳は許されません。ここイタリアの惨劇に始まる欧州の苦境と、それに続くアメリカの危難が目に入らないのでしょうか。そこから教訓を見出して大至急行動を起こすべきなのに、安倍首相と政権はぐずぐずしている。信じがたい光景です。

近代日本の権力機構はしばしば、あるいは常に国民に対して不正直に振舞ってきました。典型的な例が第二次大戦を招いた愚劣な統帥機関です。彼らは不正直のカタマリのような行動規範によってあっさりと国を滅ぼしました。

それ以前の権力も「国民への正直」とは程遠いところで国を統治しました。江戸幕府の権力中枢は論語の「民は由らしむべし 知らしむべからず」に拠って、しかも本来の意味を意図的に曲解して「バカな人民には理由など知らせず、一方的に法に従わせればよい」という方針で臨みました。

権力の思い上がった在り方は、お上を畏怖する従順な「ひつじ的」人民の存在もあって、明治維新を経て第二次大戦の巨大な世直しを見ても変わりませんでした。いや、民主主義の仮面を付けて一見変わったようには見えました。だが本質は変わっていません。

そうした権力の不正直が、本音と建前を使い分ける文化と相まってしばしば露呈するのが、日本の政治の一大特徴です。安倍政権が新型コロナウイルスがもたらす兇変の足音を聞きながら、優柔不断にも見える動きで緊急事態宣言への決断を先延ばしにしているのがその典型です。

政権は不正直と思い上がりに絡めとられて政策を誤っています。子供だましにも等しい姑息な主張や理由付けや詭弁を弄して、世界が第二次世界大戦以来の未曾有の危機と捉えて果断に動くのを尻目に、素早く行動することをためらっています。それは取り返しのつかない事態を招く可能性があります。



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決死の戦いはとことんまで

4月に入って、イタリアの新型ウイルス感染者の一日あたりの増加数が、上限に達して安定期に入った可能性が高い、という説があります。だが例えそうでも、あくまでも安定期なのであり、終息に向かい始めたというのはまだ全く当たらないと考えるべきでしょう。

感染状況が安定期に入ったらしいという国民保健局の報告を受けて4月1日、イタリア政府は外出禁止令を緩めて、親が付き添っての子供の散歩を認める、との達しを出しました。すると国中が騒然となりました。

自宅に閉じ込められて苦痛を強いられている人々の間には歓声が上がりました。特に子供のいる家庭は喜びました。学校閉鎖で自宅に詰め込まれた子供も、面倒を見る親も、ストレスが高まっているのです。

一方で激しい非難も沸き起こりました。Covidi19の毒牙に苦しむロンバルディア州を中心とする北部各州は、いま規制を緩めればここまでの努力が水の泡になるとして、政府の告示を「無意味で無責任、且つ狂気の沙汰」とまで呼んで猛烈に反発したのです。

北部各州の抗議は健全なものです。たとえ感染状況が真に安定期に入っているとしても、イタリアのCovid19禍の現状は依然として無残極まりないものです。ここで厳しい移動規制に象徴される封鎖・隔離策あるいはロックダウンを解くのは危険が多すぎる。

北部の州知事らの猛烈な糾弾にさらされたイタリア政府は、あっさりと間違いを認めました。翌日には早速方針を転回して、コンテ首相は全土の封鎖を4月13日まで継続する、とテレビ演説で表明しました。

4月13日まで、としたことには理由があります。4月12日はキリスト教最大の祭り、復活祭(イースター)です。復活祭当日は家族や友人、またゆかりの人々が集って大食事会を開きます。

復活祭の食事会では子ヤギや子羊の肉が供されます。ことしは恐らくそれらの肉の消費も大きく落ち込むことでしょう。

新型コロナウイルスは多くの人の命を奪う代わりに、たくさんの子ヤギと子羊のそれを救うという、残虐と慈悲が交錯する皮肉なドラマも演出しそうです。

復活祭の翌日の13日は小復活祭(パスクエッタ)と呼ばれる休日。その日は多くの人々が、やはり家族や友人などと共に野山に出てピクニックを楽しむ習慣があります。

コンテ政権は祭りの両日の人の集まりを規制することで、感染拡大を防止しようと考えているのです。政府は同時に、あたかも4月14日には全土の封鎖が解除されるかのようなもの言いもしていますが、今の状況では規制はその後も継続される、と見るのが妥当でしょう。

いずれにしてもイタリアのロックダウンは、状況を確認しながら最長7月いっぱいまで継続される、と以前から決められています。それはつまり、7月以前の全面解除もある代わりに、期限の後も規制が続く可能性がある、ということです。

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