例外だらけの法律は例外のない法律と同じ喜劇だ

イタリア政府は、欧州で最も長く且つ最も厳しい新型コロナ対策・ロックダウンを、6月3日に全面解除すると発表しました。人々の動きが自由になり店やレストランや工場やオフィスなど、ビジネスの全てが解禁されます。EU域内からの外国人の入国も許可されます。

つまり、新型コロナウイルスの感染拡大が確認されれば、ただちにロックダウンを再導入する、という段階的解除の度に付けられてきた条件と同じ要項を別にすれば、ほぼ全ての社会経済生活の営みが新型コロナ以前に戻る、ということです。

最新のイタリア政府の施策の根本は上記のようになっていますが、実はここ数日は、ロックダウン解除に向けての政府の方針の細部はめまぐるしく変わっています。

特にレストランやビーチ施設や美容院などの営業再開に向けての緩和基準が、早い再開を要求する事業者自身や、彼らを後押しする野党議員や経済人などの口出しで揺れにゆれています。

ひとつの典型的な例がレストランのテーブルの設定条件です。感染は始まったもののロックダウンがまだ導入されなかった頃の規則では、テーブルとテーブルの間を最低1メートル以上空けること、とされました。

その規則は感染拡大が進むに従って厳しくなり、すぐに1、5メートルと改められて次には2メートルなどとも言われました。カフェやバールなどで立ち飲みをする際の、人と人の間隔も似たようなものでした。

ところがその規定は、ロックダウンが解除されて営業を再開する際には、テーブルは4メートル四方内に1セットだけ設定すること、とされました。たった一つのテーブルのために4メートル四方ものスペースを割けというのは、小規模店は営業するな、と言うにも等しい厳しい条件です。

感染のリスクが低くなるように、店の外にテーブルを設置しての営業を促す意味合いも、それにはあったように見えます。店の外なら密閉また密集することが少なくなりますから、感染防止対策上の理想の形です。

しかしながら全てのレストランが、店の外に自由に使えるスペースを有しているとは限りません。むしろそうではない店のほうがはるかに多いでしょう。

案の定、狭いスペースしか持たないレストランをはじめとする飲食店から激しいブーイングが起こりました。すると当局は早速、テーブルとテーブルの間に一定以上の以上の間隔を空けること、と修正しました。

そうした混乱に加えて、資金不足や解雇した従業員の再雇用ができないなどの理由で、店を再開できないケースも多くなると見られています。一事が万事そんな具合です。営業再開に向けてはまだまだ紆余曲折がありそうです。

イタリアでは法律や法令や自治体の条例などが、施行された後でふいに変わるのは日常茶飯事です。それらの規則の試行(Prova)期間というものがあって、実際に運用した上で不都合があればさっさと変更されます。

それはきわめて現実的で柔軟な制度です。しかし、はたから見ている者の目には、いつものイタリアのカオスや混乱やいい加減さが顕現したもの、と映りがちです。つまり例外だらけの法律。それは例外のない法律と同じ程度の悲劇であり喜劇です。

だがそれほど悪いシステムとも思えません。法律や規則は人間が作り人間に適用されるものです。実際に施行してみて、人間と人間の関係性に不都合が生まれるならさっさと改訂し、再びトライしてはまた改善すれば良いのではないか。

イタリア社会の典則のほとんどは官僚に支配されています。官僚制度の複雑さ奇怪さは、日本以上に目に余るものがあります。社会機能を停滞させる悪しき仕組みでさえあります。ところが同じその体系が、いま述べたように新しく施行される法令等の修正や改定にはとても身軽です。

それは混乱であると同時にフットワークが良いとも形容できる仕組み。カトリックの古い体質と価値観が、インターネットを駆使する若い政治勢力「五つ星運動」と併存する国、イタリアならではの光景です。筆者はいつものことながらため息をついたり感心したりするのみです。

6月3日をもってイタリアのロックダウンの全面解除が実施されるのは、今後「感染拡大の第2波が襲わない限り」間違いありません。しかしその中身の詳細は日々変化していくことが予想されます。

そんなわけで、今日ここに記した内容が明日には変わっている、という事態が今後もひんぱんに起きる可能性も高いことをここにお知らせし、あらかじめ了解を願っておきたいと思います。

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official siteなかそね則のイタリア通信

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