新型コロナ・ワクチンは超高速で誕生するか

新型コロナで痛めつけられたイタリアは、日本などの知ったかぶり専門家らに「医療レベルが低い」「感染爆発への対応が悪い」などと、先進国にもあるまじき不備やうっかりやアバウトさを批判されることはあっても、最新の医療分野での新技術や発明や発見などを賞賛されることはあまりありません。

ところがどっこいイタリアは、欧州の技術革新の基礎になったローマ帝国やルネサンスなどの昔を持ち出すまでもなく、現代の医療分野でもそれなりに傑出した貢献をしている国です。新型コロナのワクチン開発でも同じ。国内での独自の研究開発とは別に、国外の研究機関や施設とも提携して成果を挙げています。

その最たるものが、ローマ近郊の製薬会社IRBMが英オックスフォード大学のJENNER研究室と共同で進めているワクチン開発。世界では現在、合計140(120という説も)種類前後のワクチンの研究開発が進められています。今のところそのうちでもっとも有望なのが、英伊共同開発ワクチンなのです。

しかしほとんど誰もイタリアの関与には触れません。まず「オックスフォード大学が開発中」と研究機関の名を挙げて報道し議論を展開します。イタリアの名前はずっと後になって申し訳程度に言及するのが普通です。もっとも言及されることがあれば、の話ですが。

ワクチンはウイルスを改変したり弱体化させて作るのが従来のやり方です。それは接種された者が病気になる危険などを伴うこともあって、細心の注意を払い用心の上に用心を重ねた治験を経て完成します。早くても1年~2年は時間がかかるのが当たり前です。

ところがオックスフオード大学とIRBMが共同開発中のワクチンは、従来のものとは違って遺伝子を基に作り出します。そのために時間の短縮が可能になります。同ワクチンは研究開始からわずか数ヶ月で臨床試験に入り、もっとも難しい最終段階の治験を夏にかけて行います。これが成功すれば年内にも実用化する可能性があります。

そんな重大な研究開発に最初から絡んでいるイタリアですが、既述のようにほとんど誰もそのことには言及しません。イタリアの厚生大臣だけがIRBMを持ち上げたり、オックスフォード大学のイタリア人研究開発スタッフを紹介したり顕彰したりして、イタリアが研究開発に一枚噛んでいることを懸命に宣伝しています。

あるいはIRBMが民間の製薬会社であることも影響するのでしょうか、イタリアにおいてさえワクチンの開発事情に同社の名をからめて語るメディアはほとんどありません。ワクチン開発のような事案では、商業目的の薬剤生産者よりも、大学や研究機関などの高邁な探求や開発に人々の関心が向かい勝ちだからでしょう。

BBCなどの世界的に影響力のあるメディアは、人々のそうした思考傾向を利用しつつ、大学が英国内の施設である事実から来る「愛国心」にも押されて、いよいよオックスフォード大学の名ばかりを強調して報道します。世界のメディアもこれに追随します。イタリアのメディアでさえも。

そうした風潮の底には、先進国の中のハチャメチャ国・イタリアには最先端の技術、学問、哲学等々は育たない、というひそかな偏見も手伝っていると筆者は思います。さすがに創造性と芸術の国イタリア、という大きなコンセプトを看過する者はいないと思いますが。。

それやこれらが重なって、あるいは世界を救うかもしれない天晴れな新型コロナワクチン第1号の開発に、イタリア“ごとき”がかかわっているとはメディアはなかなか主張せず、メディアが口をつぐむので人々も気づかない、という現象が生まれます。メディアはそういう局面では、事実に気づいていても無視します(報道しない)からいよいよ性質が悪い。

オックスフォード大学&IRBMワクチン(と仮称する)には、イギリスとイタリアのほか、フランス、ドイツ、オランダ、さらにアメリカが供給契約に署名しました。従ってワクチンは完成した暁にはその6ヵ国にまず行き渡り、その後世界各地にも販売されることになります。

日本や中国をはじめとする世界の多くの国々も、オックスフォード大学&IRBMワクチンには強い関心を抱いています。ワクチンが予定通り最終段階の臨床試験をクリアし、年内に供給が始まれば画期的なことです。しかし懸念がないわけではありません。

ワクチンはその有効性と安全性を、摂取量や期間またその道筋などの重要事案を3段階に分けて繰り返し確認し、最終的に大規模集団においても確実に有効性と安全性がある、と認められたときにのみ生産が許されます。最終治験では数千人が対象にされることもあり、もっともコストが掛かる。ハードルも高い。有望とされたワクチンがこの段階でボツになることも多いのです。

オックスフォード&IRBMワクチンが最後の治験でNGとなる可能性はまだ半分はあると考えられます。そこに至る以前に新型コロナが終息して、商業的にも社会的にもまたモラル的にもワクチンを開発する意味がなくなれば、ワクチン開発は沙汰止みとなります。過去にはSARS(重症急性呼吸器症候群)や、MERS(中東呼吸器症候群)のワクチン開発が途中で立ち消えになりました。

儲からない事業は前に進まないのが世界の現実です。しかし新型コロナの場合は状況が全く違います。開発が中止になることはまずないでしょう。それどころか、オックスフォード&IRBMワクチンが成功し供給が開始されても、他のワクチン開発が止むことはありません。需要が桁違いに多い分、ワクチンの供給は滞ります。従って各事業者は儲けを求めて開発を続け、各国政府は自国民を守るためと称して事業者を援護し、自前のワクチンを手に入れようと躍起になる、と考えられるからです。


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