ガルダ湖の空が晴れるまで

イタリア最大の湖、ガルダ湖を1000メートル下に見おろす山中にいます。元修道院だった古ぼけた山荘があって、8月の猛暑時などに滞在したり、夏の終わりから秋口に友人らを招いて伝統料理のスピエド(ジビエ串焼き)を振舞ったりします。

コロナ禍の今年はむろんスピエド会食はしないつもりですが、しばらく滞在するつもりで登ってきました。暑さよりも湖畔の人出を避けたい気分で。だがスマホはかろうじて使えるものの、PCのインターネット環境がほぼゼロなので不便なことこの上もありません。。

ガルダ湖は南アルプスに連なるプレ(前)アルプスの山々に囲まれています。今いる山はその一つ。山頂の標高は1500メートル。800メートルから1000メートルの間には、雰囲気の悪くないレストランが3軒あります。

湖畔の町を出てここまで車で登る間には三つの集落を眺め、一つの集落を横断します。それらの集落は行政区分上は全て出発した町の一部です。滞在しているのは人口10数人の集落に近い一軒家。そこは山中の集落のなかではもっとも高い位置にあります。

湖畔の町はDHローレンスが滞在しゲーテもイタリア旅行の際に通ったという名前の知れた場所。新型コロナウイルスの感染爆発時には、ほとんど感染者が出なかったことで称えられました。山中の集落のみならず、湖畔のメインの集落でも死者は出ず感染者もほぼゼロでした。

町はイタリア最悪の感染地であるロンバルディア州に属していますから、感染者が少ないのはなおさら喜ばれました。8月の今はドイツ人バカンス客でにぎわっています。もともとドイツ人観光客に人気のある町なのです。

Covid19を抑え込んだおかげもあって、町にはバカンスや観光目的のドイツ人が押し寄せています。いつもの年よりも多く感じられるのは、Covid19禍でドイツ人観光客の行き場が限られているせいもあるのでしょう。

だが山中にはドイツ人はほとんどいません。彼らは便利で且つ湖畔の景色が美しい下界の町に長逗留しているケースがほとんどです。山中の集落を含む町の全体は感染予防策に余念がありません。しかし観光客は多くが無頓着で利己的です。

自らが楽しめればウイルスの感染のリスクなどはほとんど意に介さない。しばらくすればどうせ町を去る身だ、自分には関係がない、という意識を秘めています。マスクなども付けずに動き回る不届き者も多い。秋から冬にかけて、ドイツ人が持ち込んだウイルスが暴れないか、と筆者は密かに気を揉んでいます。

かすかな電波を頼りにスマホでググると、日本では人口割合で最悪感染地になっている沖縄県での感染拡大が、特に目立っています。そこでの問題もおそらく観光客なのでしょう。観光客が自主的に感染拡大予防策を取る、などと考えるのは甘い。

彼らは既述のように自らが楽しめれば良い、と考えていることが少なくありません。特に若者の場合は、感染しても重症化する危険が少ないので感染予防などは二の次です。自らの感染を気にしないとは、他者を感染させることにも無頓着ということです。

コロナの感染を本気で食い止めたいのなら、人の動きを制限するしかありません。それも強制的に。自粛に頼るだけではなんとも心もとない。むろんそれは社会経済活動の制限と同義語ですから、舵取りが難しい。

コロナの感染防止と経済活動のバランスに世界中が四苦八苦しています。そしていま現在は、感染防止よりも経済を優先させた国々が、より大きな危機に瀕しています。アメリカ、ブラジルがそうです。インドも同じ。日本も残念ながらそこに近づいているように見えます。

ここ欧州でもロックダウンの後に、ただちにまた全面的に経済活動を開始した国ほど、またそれに近い動きをした国ほど、第2波の襲来らしい状況に陥っています。欧州の主要国で言えば、スペイン、フランス、ドイツなどにその兆候があります。

ところが主要国の一つで最悪の感染地だったここイタリアは、新規感染者は決してゼロにはならないものの、感染拡大に歯止めがかかって落ち着いています。世界一厳しく世界一長かったロックダウンを解除したあとも、社会経済活動の再開を慎重に進めているからです。

一例をあげれば、前述の国々では若者らはクラブまたはディスコで踊りまくることが可能ですが、イタリアではそれはできません。そうした店の営業内容が密を避ける形に規制されているからです。イタリアは突然にコロナ地獄に突き落とされ孤立無援のまま苦しんだ、悪夢のような時間を忘れていないのです。

また規則や禁忌に反発することが多い国民は、コロナ地獄の中でロックダウンの苛烈な規制だけが彼らを救うことを学び、それを実践しました。今も実践しています。国の管制や法律などに始まる、あらゆる「縛り」が大嫌いな自由奔放な国民性を思えば、これは驚くべきことです。

だが激烈なロックダウンは経済を破壊しました。特に観光業界の打撃は深刻です。そこでイタリアは大急ぎでEU域内からの観光客を受け入れることにしました。湖畔の町にドイツ人観光客が溢れているのはそれが理由の一つです。

同時にイタリア人自身もガルダ湖半を含む国内の観光リゾート地に多く足を運んでいます。夏がやってきてバカンス好きな人々の心が騒ぐのです。だがコロナへの恐怖や経済的問題などもあって、国外には出ずに近場で過ごす人が多くなっています。

「観光客」になったイタリア人も、歓楽を優先させるあまり全ての観光客と同様に感染防止策を忘れがちになります。その意味では、ドイツ人観光客やバカンス客だけが特殊な存在、ということではもちろんありません。

バカンスの向こうには感染拡大という重いブルーが待っている、というのが筆者のぬぐい切れない悲観論です。大湖ガルダの雄大な景色を見おろしながら、筆者は自らの憂鬱なもの思いが杞憂であることを願わずにはいられません。

 

 

facebook:masanorinakasone

official siteなかそね則のイタリア通信

 

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください