「ベンチのマラドーナ」より愛をこめて

偉大なマラドーナが逝ってしまいました。ふいにいなくなってしまうところが悲しく、だがさわやかでもある、いかにもマラドーナらしいサヨナラの仕方であるようにも思えます。

サッカー少年だった筆者が「ベンチのペレ」と呼ばれて相手チームの少年たちに恐れられていたころ、マラドーナはまだマラドーナではなかった。ディエゴ・アルマンド・マラドーナという筆者よりも少し幼い少年でした。

マラドーナがアルゼンチンで頭角をあらわし、むくりと立ち上がって膨張したころ、筆者は既にサッカーのプレーはあきらめて、サッカー理論や情報に興味を持つだけの頭でっかちのサッカーファンに成り果てていました。

テレビドキュメンタリーの監督として仕事をするようになってから、筆者はニューヨークに移動し2年後にそこを離れてイタリアに移住しました。それはちょうどマラドーナがアルゼンチンを率いてワールドカップを制した時期に重なっていました。

1986年のワールドカップを筆者はニューヨークで見ました。決勝戦に際して筆者は、同僚のアメリカ人ディレクターらをはじめとするTVスタッフと遊びで賭けをしました。アメリカ人は当時も今もサッカーを知りません。誰もが前評判の高いサッカー強国ドイツが有利とみて、そこに金を賭けました。

筆者とプエルトリコ出身の音声マンだけがアルゼンチンに賭けました。ヒスパニックの音声マンは同じヒスパニックのアルゼンチンに好感を持ったのです。筆者はアルゼンチンではなくマラドーナの勢いに賭けました。確信に近い思いがありました。

結果は誰もが知る内容になりました。マラドーナは対イングランド戦での「神の手ゴール」と「5人抜きゴール」の勢いに乗ったまま、アルゼンチンを世界の頂点に導きました。そしてマラドーナ本人の人気は、頂点を越えて宇宙の高みにまで突出していきました。片や筆者は騒ぎのおこぼれにあずかって、賭けの嬉しい配当金を手にしました。

同年から翌年にかけて、筆者は仕事の拠点をニューヨークからイタリア、ミラノに移しました。ワールドカップを沸かせたマラドーナもイタリアにいました。彼はその2年前からイタリア、ナポリでプレーをしていたのです。ナポリが所属するプロサッカーリーグのセリエAは当時、世界最高峰のリーグとみなされていました。

例えて言えば、現在隆盛を極めているスペインリーグやイギリスのプレミアリーグなどにひしめいているサッカーのスター選手らが、当時はひとり残らずイタリアに移籍するような状況が生まれていました。その典型例がマラドーナだったのです。

時間は少し前後しますが、絶頂を極めた80年代から90年代のセリエAにはマラドーナのほかにブラジルのジーコ、カレカ、ロナウド、フランスのプラティニ、オランダのファン・バステン、フリット、アルゼンチンのバティストゥータ、ドイツのマテウス、イギリスのガスコインなどなど、スパースターや有名選手や名選手がキラ星のごとく張り合っていました。

そこにバッジョ、デルピエロ、トッティ、マンチーニ、バレージ、マルディーニ等々の優れたイタリア人プレーヤーが加わってしのぎを削りました。筆者はそんな中、イタリアのサッカーを日本に紹介する番組や報道取材、また雑誌記事などの媒体絡みの仕事でも、セリエAにかかわる幸運に恵まれました。

マラドーナは常に燦然と輝いていました。筆者が自分のサッカーの能力を紹介するフレーズ「僕はベンチのペレと呼ばれた」を「ロッカールームのマラドーナと呼ばれた」と言い変えたりするのはそのころからです。それはやがて「僕はベンチのマラドーナと呼ばれた」へと確定的に変わっていきました。

「ベンチのマラドーナ」とは言うまでもなく補欠という意味です。そのジョークはイタリア人に受けました。受けるのが楽しくて言い続けるうちに、それは筆者の定番フレーズになりました。サッカー少年の筆者は、ベンチを暖めるだけの実力しかありませんでしたが、少年時代の悔しさはマラドーナのおかげで良い思い出へと変容していきました。

閑話休題

マラドーナはよくペレと並び称されます。 ペレは偉大な選手ですが、筆者にとってはいわば「非現実」の存在とも言えるプレーヤーです。筆者は彼と同じ世代を生きた(サッカーをした)ことはなく、彼のプレーも実際に見たことがありません。一方マラドーナは同年代人であり、筆者は彼のプレーも何度か間近に見ました。

巨大なマラドーナは、プレースタイルのみならずその人となりも人々に愛されました。彼はピッチでは「神の子」ではなく神同然の存在でした。が、一度ピッチの外に出るとひどく人間くさい存在に変わりました。気さくでおおらかでハチャメチャ。人生をめいっぱい楽しみました。

楽しみが極まって彼は麻薬に手を出しアルコールにも溺れました。そんな人としての弱さがマラドーナをさらに魅力的にしました。天才プレーヤーの彼は間違いを犯しやすい脆弱な性質でした。ゆえにファンはなおいっそう彼を愛しました。

その愛された偉大なマラドーナが逝ってしまいました。2020年は猖獗を極める新型コロナとともに、あるいはもう2度とは現れない「サッカーの神」が去った年として、歴史に永遠に刻み込まれるのかもしれません。

マラドーナは繰り返し、もしかすると永遠に、ペレと名を競います。が、人としての魅力ではマラドーナはペレをはるかに凌駕します。また今現在のサッカー界に君臨する2人の巨人、クリスティアーノ・ロナウドとリオネル・メッシは、技量において恐らくマラドーナを超えます。数字がそれを物語っています。

だが彼ら2人も人間的魅力という点ではマラドーナにははるかに及びません。マラドーナの寛容と繊細とハチャメチャと人間的もろさ、という面白味を彼らは持たないのです。マラドーナはまさに前代未聞、空前絶後に見える偉大なサッカー選手であり、同時に魅惑的な人格でした。

合掌。

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日本よ、あわてるな

2020年11月18日、イタリア時間の昼間、午後1時に日本とのリアルタイムで流れるNHKの夜9時のニュースが、「新型コロナの一日あたりの感染者数が過去最大の2201人!」とまるでこの世の終わりのような勢いで報道していました。

東京の一日あたりの感染者も493人の新記録。重症者も39人と多い。全国では276人。感染拡大が止まらない。医療現場は逼迫の一途をたどっている!等々と不安と恐怖のオンパレードです。

筆者はそのニュースを見ながら正直うんざりしました。日本の平和と、平和を恐慌に見立てるNHKの軽さと嘘っぽさにです。それは日本の軽さであり嘘っぽさです。日本があってNHKがあるのですから。決してその逆ではありません。

同じ日のイタリアの一日あたりの新規感染者数は32191人。日本のほぼ15倍です。スペイン、フランス、イギリスなども似たリ寄ったり。ドイツでさえ一日で26231人の新規感染者を数えました。

むろん死亡者も多く、重症の患者も日本とは比較にならないほどにおびただしい。医療現場も多くの国で逼迫しているのは言うまでもありません。

欧州では連日そういう状況が続いています。各国はロックダウンやそれに近い厳しい行動規制を敷いて感染拡大を食い止めようと必死になっています。そしてその多くが、それなりの成果を収めています。

成果とは、感染拡大を劇的に抑えているという意味では断じてありません。欧州が第1波の恐怖と絶望の時間を経て、感染拡大と共存する方法を日々学びながら、それをいわば自家薬籠中の物としつつある、という意味です。

欧州どころか世界でも最も悲惨な第1波の洗礼を受けたここイタリアでさえ、第2波の恐慌を冷静に受け止めてこれに立ち向かっています。

イタリアよりも強い第2波に襲われてきたフランス、スペイン、イギリス等も果敢にパンデミックに対峙し、恐れ怒りつつも断じてパニックには陥っていません。

それなのに日本の体たらくはどうでしょう。世界、特に爆発的な感染拡大が続く欧米などに比べたらどうということもない数字に慌て、悲鳴を上げ、錯乱しています。

日本はコロナ禍中の世界の国々の中では、経済も医療も社会状況も依然として良好な幸運な国です。少しはそのことを思って気を落ち着け、状況を見極めつつ行動する努力をするべきです。

一見した限りでは、ここまで運に恵まれ続けたとしか思えない日本のコロナ状況が、ふいに激変する可能性はゼロではありません。従って油断は禁物です。

だが、ほんの少しの状況の悪化に、脱兎の群れの如くパニくる日本は少し見苦しい。メディアも政府も国民も冷静になって、感染を抑えつつ経済も回す知恵をさらに磨いたほうがいいのではないでしょうか。

幸いコロナワクチンも開発されつつあります。それが日本を含むワクチン非開発国にまで行き渡るのはまだ先のことでしょう。だが恐らくそれは流通します。

それまではー繰り返しますーメディアも政府も国民も、日本がうまくやっていることをしっかりと認識して、ここイタリアを含む欧州同様に威厳を持ってパンデミックに対峙して行ってほしいと願います。

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ワクチンは善意ではなく銭(ゼニ)で出来ている

米製薬会社ファイザーが先日、新型コロナウイルスのワクチン開発に成功、と発表しました。臨床試験には4万3千538人が参加。9割以上に効果がありました。画期的な内容です。さらに一歩進んで公式に承認されれば、ファイザーのCEO(最高経営責任者)が自画自賛したように「過去100年のうちの世界最大の医学的進歩」とも言える出来事に違いありません。

ファイザーワクチンの大規模最終治験では、94人が新型コロナウイルスに感染しました。治験では医師も被験者も分からない形で本物の薬と偽の薬を投与して結果を見ます。そのうちの90%以上が偽薬を投与されたグループでした。一方、本物(ワクチン)を投与されたグループの感染は10%未満で、効果が確認されました。

だがワクチンはまだ完璧なものではありません。大規模な臨床試験のうち新型コロナ検査で陽性と出た94人の結果のみに基づいています。例えば重篤な症状に陥る高齢者にも効くのか、ワクチンを接種して獲得される免疫はどれくらいの期間有効なのか、など分からないことも多い。また同ワクチンは摂氏80度以下の超低温で保管しなければならない、という問題もあります。

ファイザー社の発表を慎重に見守る世界の専門家は、ワクチンを最終評価するためには特に安全性に関する情報など、もっと多くの踏み込んだデータが必要だと指摘しています。それでも、ワクチンの効果は50%を超えれば成功、とされる中で90%を越える効果を示したファイザー・ワクチンは、大きな朗報であることは疑いがありません。

ワクチンに関しては懐疑的な意見も多くあります。それどころか接種を徹底的に忌諱する人々も少なくありません。拙速な開発や効果を疑うという真っ当な反対論もありますが、根拠のないデマや陰謀論に影響された狂信的な思い込みや行動も目立ちます。後者の人々を科学の言葉で納得させるのはほとんど不可能に近い。だが彼らを無知蒙昧だとして切り捨てれば、ワクチンの社会的な効果は半減します。

ワクチンはウイルスを改変したり弱体化させて作るのが従来のやり方です。それは接種された者が病気になる危険などを伴うこともあって、細心の注意を払い用心の上に用心を重ねた厳しい治験を経て完成します。早くても1年~2年は時間がかかるのが当たり前です。時間がかかるばかりではなく、ワクチンは開発ができないケースも非常に多い。

ワクチンそのものの医学的科学的な内容の複雑に加えて、開発に伴う「政治」と「経済」がからんだ思惑が錯綜して、事態がさらに紛糾しついには開発が頓挫したりするのです。ワクチンはビジネスです。しかも開発に莫大な金がかかるビジネスです。市場が小さすぎたり対象になる病気が終息して、開発後に市場そのものが無くなったりすればビジネスは成り立ちません。ワクチンを扱う事業家は常にそのことを見据えて投資をしています。

人類はこれまでに多くの感染症に襲われて犠牲者の山を築いてきました。その都度ワクチンを開発して対抗しました。が、われわれがこれまでにワクチンで完全に根絶できた感染症はたった一つ、天然痘だけです。しかもそれは200年もの時間をかけて成されました。それ以外のありとあらゆる恐ろしい病、例えば結核やポリオやおたふくかぜや破傷風等々は根絶されてはいません。それらに対するワクチンを開発して予防し共存しているのです。ワクチンには人類の叡智が詰まっています。

同時にワクチンは-繰り返しになりますが-良い意味でも悪い意味でもビジネスに大きく左右されています。儲からないワクチンはワクチンではありません。あるいは儲からないワクチンは、ほとんどの場合この世に生み出されることはありません。ワクチンは国や社会の善意や慈悲で作り出されるのではありません。銭(ゼニ)がそれを誕生させます。

そのことを裏付ける最近の出来事が、2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)や2012年の MERS(中東呼吸器症候群)です。世界はかつて、恐怖に彩られたそれらの感染症に立ち向かうワクチンを手に入れようとして、急ぎ行動を開始しました。が、開発は途中で頓挫しました。感染の流行が収束して患者が減り市場が小さくなったからです。つまりワクチンを開発しても儲からないないことが分かったからです。そういう例は過去にいくらでもあります。

しかし新型コロナの場合には事情が全く違います。ワクチン開発能力の高い欧米を始めとする世界の全体で、爆発的に感染が拡大し被害が深刻になっています。ワクチンが開発されればその需要は巨大です。だから莫大な投資が次々になされています。また被害が世界規模であるため、各国の研究機関や開発事業体などが競って連携を深めてもいます。各政府の後押しも強く民間からの協力も多い。マイクロソフトのビルゲイツ氏などが私財をワクチン開発に提供したりしているのがその典型です。

また中国やロシアなどの一党独裁国家や変形独裁国家では、統治者が自らの生き残りを賭けて必死でワクチン開発を行っています。国民の生殺与奪権を握り、たとえその一部を殺しても糾弾されることがない彼らは、安全が保障されていない開発途中のワクチンでさえ人々に接種して結果を出そうとします。それはワクチンの副作用で人が死んでも、隠蔽し否定するなどして問題化しない国だからできることです。

欧米を始めとする自由主義圏では、空前絶後と形容してもかまわない規模の資金が集まるおかげで、ワクチン開発は急ピッチで進んでいます。また容赦のない被害拡大という切羽詰まった現実や、パンデミックに屈してはならないないと決意する人々の、いわば人間としての誇りも大きく後押しをして、ワクチン開発のスピードはひたすら増し続けているのです。

そうしたもろもろの要素がかみ合って、かつてない高速で誕生しつつあるのが冒頭で言及した米ファイザーのワクチンです。それは英オクスフォード大学が開発中のワクチンや米モデルナ社のワクチン「mRNA-1273」、また同じく米ジョンソン・エンド・ジョンソン社のワクチンなどの激しい追い上げを受けています。それとは別に世界全体では160とも170ともいわれる開発中のワクチンがあります。そのうち約40種類は臨床試験に入っていて、いよいよ開発速度が増すという効果が起きています。

ワクチンはその有効性と安全性を、接種量や接種期間また投与する道筋などの重要事案を3段階に分けて繰り返し確認し、最終的に大規模集団においても確実に有効性と安全性があると認められたときにのみ生産が許されます。最終治験では数千人~数万人が対象にされることも珍しくありません。大きなコストも掛かります。ハードルも高い。有望とされたワクチンがこの段階でボツになることも多々あります。

従って90%あまりの効果が認められたとするファーザー社のワクチンが、正式に承認される前にダメ出しをされる可能性も依然としてあります。だがそうなっても、他の開発中のワクチンが承認を目指して次々に名乗りを上げるのではないか、と思います。こと新型コロナワクチンに関する限り、不信の基になりかねない「高速度の開発」が、逆に信頼するに足る要因であるように筆者には見えるのです。ワクチンがビジネスで、そのビジネスに莫大な額の投資が行われているからです。潤沢な資金は安全性追求の担保になります。

ビジネスだから信用できない、という考えももちろんあり得えます。だが巨大資金を基に、衆人環視の上で進めれられている新型コロナワクチンの開発事業は、隠し立てや嘘の演出が極めて難しいように見えます。その上に、医薬品を認可・監督する米国ほかの国々の政府機関が、安全性と効果を厳しく審査します。それらの監督局はロシアや中国などとは違って実績と信用をしっかりと保持しています。

ワクチンに反対する人々の中には、ワクチンを管轄するのがまさに政府機関だからこそ信用できない、と叫ぶ人々がいます。人の感情に思いを馳せた時、そこには必ず一理があります。だがほとんどの場合、彼らの主張には科学的な根拠がありません。ワクチン開発もコロナ感染予防もその撲滅も全て、飽くまでも科学に基づいて行われるべき、と考えます。その意味で筆者は、それらの人々とは一線を画します。

ワクチンの効能に疑問を持ち、且つ安全性に大きな不安を持つ人々は、世界中で増え続けています。それらの人々のうちの陰謀説などにとらわれている勢力は、科学を無視して荒唐無稽な主張をする米トランプ大統領や追随するQアノンなどを髣髴とさせないこともありません。ここイタリアにもそれに近い激しい活動をする人々がいます。それが「“No Vax(ノー・ヴァクス)” 」です。

イタリアのNo Vax 運動は2017年以降、全てのワクチンに反対を唱えて強い影響力を持つようになりました。 それはイタリアの左右のポピュリスト政党、五つ星運動と同盟の主導で勢力を拡大しました。きっかけはほぼ4年前、イタリア政府が全ての子供に10種類のワクチンを接種する義務を課そうとしたことです。

ワクチンの「不自然性」を主張するひとつまみの過激な集団が政府への反対を唱えました。そこに反体制を標榜するポピュリスト政党の五つ星運動と同盟が飛びついて運動の火に油を注ぎました。火はたちまち燃え盛り勢いづきました。2018年の総選挙では、五つ星運動と同盟が躍進して両党による連立政権が発足。No Vaxはますます隆盛しました。そうやってワクチン反対運動は激化の一途をたどりました。

そこに新型コロナが出現しました。「No Vax」はそれまでの主張を踏襲拡大して、新型コロナウイルス・ワクチンにも断固反対と叫び始めました。彼らの論点は、先に触れたアメリカのQアノンなどカルト集団の見解にも似た荒唐無稽な内容が少なくありません。科学的な見地からは笑止なものだといわざるを得ません。だがそれを狂信的に信じ込むことで、活動家は彼ら自身を鼓舞し社会全般に無視できない影響をもたらしてます。

言うまでもなくワクチンには問題がないわけではありません。しかしながらワクチンを凌駕するほどの感染症への特効薬をわれわれ人類はまだ見出していません。ワクチンを拒否するのは個人の自由です。だがそれらの人々は、自身が例えば新型コロナウイルスに感染したときに泰然としてそれを受け入れ、「助けてくれ~!」などとわめき散らさず恐れることもなく、むろん病院や医師などを煩わすこともなく、自宅待機をして「“自然に”病気を治すか死ぬ」道を選ぶ覚悟が本当にできているのでしょうか?

それができていないなら、ワクチンの開発や流通の邪魔をするような過激な言動をするべきではない、と考えますが、果たしてどうなのでしょう。病気になったとき、「助けてくれ!」と火のように喚き狂うのは、得てしてそういう人々である気がしないでもないのですが。。。

※この記事の脱稿直後、米モデルナ社の新型コロナワクチンが、ファイザー社のワクチンを上回る94、5%の予防効果があった、と発表されました。それがライバルに遅れまいと焦るモデルナ社の短兵急な動きではなく、ワクチンの真実の効果の表明であることを祈りたいと思います。

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ギリシャ・エーゲ海の島々の食日記~2019年までの番外編

クレタ島のヤギ煮込み

 

ギリシャ・エーゲ海の島々の中でも最大、且つ最南端のクレタ島は、肉料理が豊富です。島でありながら肉料理が発達したのは、アラブ人の襲撃を恐れた古代の人々が海から遠い内陸部に住まいを定めたからです。

ドデカネス諸島のうちの小さなレロス島では、豊富な魚介料理に出会いました。その中では日本の刺身に影響された「刺身マリネ」の一生懸命さが印象的でした。

島が大きいほど肉料理が発達しているように見えるのは、陸地が広い分野生の動物も多い、というのが理由なのでしょう。狩の獲物が増えればレシピも多様化します。

また家畜の場合でも、土地が潤沢なほど牧草や飼料が充溢するため飼育が盛んに行われます。そうやってまたレシピが充実する、という当たり前の状況もあるに違いない。

数年前に滞在した同じギリシャのロードス島には、肉料理と魚介料理がほぼ似通った割合で存在していました。レシピも盛りだくさんで、味もとても良かった。

ロードス島はギリシャ国内4番目の広さの島。大きくもなく小さくもない規模。あるいは大きいとも小さいとも言える島。そのせいで料理も肉と魚が満載、というところでしょうか。

10年程度をかけて中東や北アフリカを含む地中海域を旅する、という筆者の計画はイスラム過激派のテロのおかげで頓挫しました。そこに新型コロナが加わってさらに状況が悪くなりました。

筆者は命知らずの勇気ある男ではありませんので、テロや誘拐や暴力の絶えない地域を旅するのは御免です。また新型コロナ禍中での旅もぞっとしません。

それでも来年以降は、たとえコロナワクチンが開発されなくても、少しづつ旅を再開しようと思っています。ここまでの体験で、感染防止策を徹底すれば旅先でも大丈夫ではないか、と考えるようになりました。

しかし、ワクチンがない場合には、筆者の地中海紀行は来年以降も、ギリシャを中心に回る腹づもりです。アラブまた北アフリカの国々は、「将来機会がある場合のみ訪ね歩く」ときっぱり割り切っています。

その際の食の探訪のひとつは、アラブ圏で大いに楽しもうと考えていた、ヤギ&子ヤギまた羊肉料理をしっかりとメジャーに据えて、食べ歩くことです。

これまでにトルコでもギリシャのクレタ島でもドデカネス諸島でも、はたまたスペインのカナリア諸島でも、ヤギ&羊料理は目に付く限り食べ、目に付かない場合も探して食べ歩きました。

また、テロが横行していなかった頃のチュニジアでも同じ料理を求めました。そうした中での驚きは、なんと言っても昨年のクレタ島。ヤギ&羊肉料理のレシピの豊富と美味しさに魅了されました。

そこで食べられるのは家畜化された普通のヤギ&羊肉。その一方でクレタ島には、クリクリと呼ばれる原始的な野生ヤギが生息していて、島のシンボルとして大切にされています。

クリクリ種の野生ヤギは絶滅危惧種。保護されていて食べることはおろか捕獲も厳禁ですが、島人にはクリクリヤギへの特別な思い入れがあるようです。

クレタ島は四国の半分弱ほどの大きさの島。見方にもよるでしょうが決して小さくはありません。そこでの筆者のこれまでのヤギ料理食べ歩きは、島の第2の都市ハニア郊外にあるリゾートの周辺域のみです。

そこだけでも多様で目覚ましいヤギ&羊肉料理に出会いました。島全体を巡り歩けばさらに豊かなレシピに出会えるに違いありません。

世界には一生かけても訪ねきれない素敵な場所がゴマンとあります。そこも旅したいと思いますが、クレタ島のヤギ料理探訪も中々捨てがたいものがあるのです。

 

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コロナ禍中のアブナイ遊戯

 

【新聞同時投稿コラム】

 

~コロナ禍中のアブナイ遊戯~

 欧州は新型コロナの第2波に見舞われている。そんな中でも猟師はせっせと狩りに出る。欧州の多くの国の狩猟解禁時期は毎年9月。新年を跨いで2月頃まで続く。ここイタリアの狩猟シーズンも9月からの約5ヶ月間。フランスも似ている。

 一方、狩猟大国のスペインは春にも狩猟シーズンがあり1年のうち9ヶ月間は国中の山野に銃声が響く。スペインの狩猟は、長い解禁期間や獲物の種類の多さで動物愛護家などに強く批判される。だがそれはフランスやイタリアも同じ。欧米の一般的な傾向は銃を振り回して野生動物を殺す狩猟に否定的だ。狩猟が批判されるもう一つの原因は誤射が後を絶たないこと。猟師自身や一般人が撃たれる事故が多い。

 批判にもかかわらず狩猟は盛況を呈する。経済効果が高いからだ。例えばスペインの狩猟ビジネスは 12万人の雇用を生む。狩猟用品の管理やメンテナンス、貸し出し業、保険業、獲物の剝製業者、ホテル、レストラン、搬送業務など、さまざまな職が存在するのだ。

 スペインは毎年、世界第2位となる8000万人以上の外国人旅行者を受け入れる。が、新型コロナが猛威を振るう2020年は、その97%が失われる見込みだ。大打撃を受ける観光業にとっては国内の旅行者である狩猟客は頼みの綱の一つ。2020年-21年の狩猟シーズンは盛り上がる気配があるが、それは決して偶然ではないのだ。

 スペインほどではないがここイタリアの狩猟も、またフランス他の国々のそれも盛況になる可能性が高い。過酷なロックダウンで自宅待機を強いられたハンターが、自由と解放を求めて野山にどっと繰り出すと予想されているのだ。そうなれば人々は、コロナウイルスに加えて銃弾の危険にも多くさらされることになる。

 

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ロックダウン十国十色

11月7日のイタリアのコロナ新規感染者は3万9千811人。死者は425人。1日あたりの感染者数は2月-5月の第1波と第2波を通して最大。検査数の増大によって新規感染者の数も第1波より大幅に増えていますが、死者数は3月27日の最大919人よりは少ない。

だが感染拡大も死者数も、そしてICU(集中治療室)患者数も確実に増え続けています。イタリアの第2波の状況はフランス、スペイン、イギリスなどに比べるとまだ比較的平穏ですが、危機感は日ごとに強まっています。

イタリアは11月6日からコロナの感染状況によって、全国20州を危険度の高い順にレッド(赤)、オレンジ、イエロー(黄)の3カテゴリーに色分けし、それぞれに見合う準則を導入しました。最も危険度の高いレッド・ゾーンの4州では、一日を通して住民の移動が規制されるなど、第1波時とほぼ同じ厳しいロックダウン措置が実施されています。

次に危険度の高いオレンジ・ゾーンの2州と、比較的状況が穏やかなイエロー・ゾーンの14州でも、夜10時から翌朝5時まで外出が禁止され、博物館、映画館、劇場、スポーツジムやプール等は閉鎖。ショッピングモールに始まる大型商業施設も週末の営業が禁止されるなど、準ロックダウン的な規制がかけられました。

イタリアは社会経済活動の継続と感染拡大抑止との間で大きく揺れ動いています。3月-5月の過酷な全土ロックダウンによって感染拡大を押さえ込みましたが、その代償として経済に大きな打撃を受けました。政府も財界も国民の大半も、その二の舞を演じたくない点で一致しています。

同時に、第1波では一日あたりの最大感染者数が6557人(3月21日)だったのが、第2波では10月半ばに1万人を超え、11月6日には3万7千809人、翌7日は既述のようにさらに増えました。第1波時よりも検査体制が拡充したとはいえ、感染爆発が連日続いている、と言っても過言ではない状況です。

イタリアは、このまま経済活動を続けるべきという声と、全土ロックダウンに踏み切るべきという声が高まって、国論が二分されています。かつては飽くまでも全面的なロックダウン支持者だった筆者は、今では感染拡大を抑える最大の努力をしつつ経済活動も続けるべき、と考えるようになっています。

ロックダウンのイタリア経済への打撃は見るに耐えないほどに大きなものでした。それは現在も尾を引いています。それでも少しの回復軌道に乗りつつありました。ここで再びのロックダウンに踏み切れば、イタリア経済は今後何年にも渡ってさらに低迷するでしょう。それは避けるべきではないか、と思います。

欧州各国は大なり小なりイタリアと同じジレンマを抱えています。欧州大陸の52カ国の感染者の合計は11月5日現在、中南米の1140万人よりも多い1160万人。死者は29万3千人にのぼります。そんな中、どの国も感染拡大抑止と社会経済活動の両立を目指して必死に対策を講じています。

レストランやカフェなどの飲食店の閉鎖や営業規制、日常必需品店以外の小売店の閉鎖や営業短縮、また劇場や映画館や美術館などの娯楽文化施設やスポーツジムなどの閉鎖に加えて、各国が国民に課している管制をランダムに挙げれば、例えば次の如くです。

ギリシャは11月7日、ロックダウン開始。小学校と保育所以外の学校は閉鎖。許可証を持参の場合のみ外出可能。

スペインはほぼ全土で住民の移動制限。国民は居住区以外の地域への移動はできません。首都のマドリード地区は週末に他の自治体との行き来を制限。隣国のポルトガルは国土の大半で、仕事、通学、食料購入以外での外出を自粛するように要請。

フランスは10月30日からロックダウン入り。日常必需品を扱う店以外の小売店は閉鎖。外出をする際は自己申告の外出許可証の携帯が求められます。

チェコは夜9時以降の外出禁止。全ての店は午後8時閉店。また日曜日は営業禁止。ルクセンブルグ、スロバキア、スロベニア、キプロス等は夜間外出禁止。コソボは65歳以上の国民の外出を禁止。ポーランドは映画館などの娯楽施設とほとんどのショッピングセンターを閉鎖。

 オーストリアは夜8時から翌朝6時まで外出禁止。首都ウイーンの有名劇場など、娯楽施設は全て閉鎖。誕生パーティーやクリスマスのマーケットなども厳禁となりました。

スイスはジュネーブと近郊の非日常品店は閉鎖。ほとんどのバーやレストランの夜間営業は禁止。多人数での邂逅も制限されています。

ドイツは11月2日から、テイクアウトサービス以外の飲食店の営業を禁止し、娯楽施設も閉鎖。同時に観光目的でのホテル宿泊も厳禁としました。

ベルギーは10月19日から夜間外出禁止。ロックダウンが導入されて飲食店や小売店は閉鎖。国民にはテレワークが義務付けられています。しかし、昼間の外出は許されます。

EU(欧州連合)本部のあるブリュッセルを有するベルギーは、人口比率での感染者と死者が極めて多い。それでも昼間の外出を規制しないのは、EUの心臓部ゆえのジレンマのようです。

デンマークはいわゆるロックダウンの厳しい処置は取りませんが、ユトランド半島 地域での移動の自粛を住民に求めています。変異したコロナウイルスがミンクから人に移ったことを受けての処置。

ノルウエーは欧州で最もコロナ感染が抑えられている国の一つですが、国民に最大限の自宅待機と他者との接触の回避を呼びかけています。ノルウエーはロックダウンをかけずにコロナ危機を乗り切ることを目指しています。

スウェーデンは相変わらず独自のコロナ対策を推進しています。国民は他者との接触や屋内での活動を避け、できるだけ公共の乗り物を利用しないように要請されています。それには法的根拠がありますが、違反しても罰せられることはありません。また全ての国民はテレワークを推奨され、大きなパーティーや集会を控えるように呼びかけられています。

アイルランドは10月22日、第2波の欧州で一番初めにロックダウンを開始。学校は閉鎖しませんが、必要危急の用事以外での外出は禁止。

英国のイングランドは、ウエールズと北アイルランドを追いかけて11月5日からロックダウン開始。学校は閉鎖されませんが、パブなどを含む全ての飲食店が営業禁止。テイクアウトのみが許される。

など。など。。

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おっかなびっくりロックダウン

3月-4月の厳しいロックダウン効果によって、夏の間のイタリアのコロナ感染は抑えられていました。が、9月から徐々に増えて11月4日の新規感染者は30550人。死者は352人。累計の死者数は39764人となりました。

それを受けてイタリア政府は、ロックダウン導入で先行するフランス、ドイツ、イギリスなどに続いて、11月6日から少なくとも12月5日まで再び厳しい規制をかけることになりました。

ただし今回は全土一斉のロックダウンではなく、症状のある人や病院のベッドなどの割合また占有率などを勘案して、全国20州を赤、オレンジ、黄色の3段階の警戒レベルに分け、それぞれに見合った管制をします。

全国一律の規制は:

22時から翌朝5時まで外出禁止。高校はオンライン授業のみ。10月26日から閉鎖されている博物館、映画館、劇場、スポーツジムやプールなどに続いて、各種遊戯場や店も閉鎖。またショッピングモールなどの大型商業施設は週末の営業を禁止。

さらにスクールバスを除くバスなどの公共の乗り物は乗車率50%未満で運転。仕事や通院など必要危急の場合以外は、国民はできる限り公共の乗り物を利用しないよう強く要請。公務員や一般会社職員はできるだけリモートワークに徹底する。

最高警戒レベルのレッドゾーンは:

相変わらず感染者が多いロンバルディア州に加えて、ピエモンテ、ヴァレダオスタ、カラブリアの計4州。レッドゾーンでは生活必需品店以外の小売店やマーケットは全て閉鎖。住民票のある自治体から他の自治体への移動禁止。

また住民は自宅近くでの運動のみ許される。レッドゾーン内の規制は、春に実施された全国一律の外出制限とほぼ同じ厳しい措置です。ただし、第1波時のロックダウンとは違って、理容室や美容室の営業は認められます。

レッドゾーン内の中学校2年生と3年生の授業はオンラインのみで行う。小学生と中学1年生の授業は学校で行われるが、子供たちは着席中も必ずマスクを付ける。これまでは座席間の距離が保たれていれば、着席中はマスクをはずしても構わない、とされていました。

南部プーリア州とシチリア州は、レッドゾーンに次いで危険度の高い「オレンジ色」。残りの14州と北部のトレント県、及びボルザノ県は最も危険度の低い黄色に色分けされました。色分けは感染状況によって15日ごとに見直されます。

(なお、黄色は元々緑色になるはずでしたが、緑色だと「安全地帯」を連想させる恐れがあるとして、「警戒」や「慎重」の意識を喚起する黄色に変更されました)

パンデミックの当初から新型コロナに呪われているロンバルディア州は、再びロックダウンにかけられました。第1波ではロンバルディア州の12の県の中でも、特に筆者の住まうブレシャ県とベルガモ県が感染爆心地になりました。今回は州都のあるミラノ県の感染拡大が最もひどくなっています。

イタリア政府は経済破壊につながる全土のロックダウンをなんとしても避けたい考え。しかし見通しは暗い。感染拡大が止まず死亡者が急増すれば、全土一斉ロックダウンへの圧力が強まるでしょう。だがそうなってからでは、感染拡大に急ブレーキをかける、という意味では遅すぎます。

結局イタリアは、全土のロックダウンは導入せず、相当数の犠牲者を受け入れながら経済も動かす、良く言えば“中庸”のまた悪く言えば“どっちつかず”の道を探るのではないか。感染拡大や死者増も容認する、というのは恐怖のシナリオですが、第1波時の地獄を経験している分、人々は落ち着いているようにも見えないこともありません。

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サヨナラとらんぷ? 

 

トランプ候補が米大統領選で敗北後に亡命するシナリオがあります。

全国平均の世論調査では一貫してバイデン候補にリードされているトランプ候補は、激戦州に狙いを定めて活発なキャンペーンを張り、バイデン候補を追い上げているとされます。

それどころかオハイオ州などでは、逆転リードに入ったなどという報道も盛んに行き交っています。2016年の選挙と同じく、相手にリードを許しているとされるトランプ候補が当選する可能性は、依然として十分にあります。

一方、戦いに敗れて「ただのヒト」になった場合には、トランプ大統領は逮捕、起訴、刑務所入りという憂き目を見るかもしれません。それを怖れて彼はロシアに亡命するのではないか、とも噂されています。見方によってはいかにもありそうなシナリオです。

トランプ大統領は4年の在任中にさまざまな罪を犯した、と多くの批判者は考えています。例えば実の娘や娘婿を大統領補佐官や上級顧問の政府要職に登用したりした公私混同、あるいは権力の乱用。大統領の地位を使っての自らの事業への利益誘導。KKK、 プラウドボーイズ、ミリシア などの極右・狂信的集団への暴力行為の扇動など。

また大統領に就任する以前に犯した女性差別&性暴力、あるいは強姦。政治資金の流用。一貫しての巨額脱税。また国内の分断と騒乱を鼓舞し世界にヘイト、差別、暴力賛美などのトランプ主義を撒き散らした、人道に対する罪(Crime against humanity)などを指摘する者さえいます。

それらは全て疑惑の域を出ていません。疑惑は彼が大統領であることで、疑惑のままに留まって精査が避けられてきました。しかし、いったん彼が権力の座から引きずり下ろされた場合には、たちまち調査や分析や捜査が始まって、彼は窮地に陥るかもしれません。だから彼は亡命する、というのです。

筆者が知る限り「トランプ亡命」のテーマを正面きって取り上げる大手メディアはありません。だがSNSやエンターテインメント界またロシアなどのテレビでは盛んに取り上げられてきた題材です。トランプ大統領自身も演説で「もしもバイデンに負けたらアメリカを去る」と半ば冗談めかして述べたことがあります。

人は頭に浮かばない思念を口にしたりジョークにすることはありません。考えたことのみがヒトの言葉になるのです。そのことに鑑みれば彼は明らかに、少なくとも一度は「亡命」ということを考えてみたのです。考えから行動までの距離はさまざまですが、時として極端に近いこともあります。

またトランプ候補が選挙に敗北した場合には、体の芯まで憎悪と差別と不寛容に染まった彼の支持者の「トランプ主義者」らが、敗北を認めずに暴動に走る可能性がある、とも危惧されています。そうした疑惑や怖れや憂慮を紡ぎ出した、というただそれだけでもトランプ大統領は厳しく指弾されて然るべきです。なぜなら彼は超大国アメリカのれっきとした大統領だから。

トランプ亡命説よりもさらに現実味を帯びた不穏な噂もあります。すなわちトランプ陣営が、郵便投票の不正を持ち出して敗北を認めずに訴訟に持ち込み、憲法の規定を都合よく利用して選挙の勝利を宣言する、という信じがたい成り行きです。トランプ大統領が郵便投票は不正につながる危険がある、と根拠のない主張を繰り返したのは、そこへ向けての伏線だと多くの人が知っています。

トランプ大統領が再選されれば、アメリカの混迷と卑小化と醜悪化と衰退はさらに進行し、国内の分断と差別と偏向と格差が広がって、アメリカは再び立ち上がれなくなるほどの打撃をこうむるかもしれません。そうならないためにも彼が大差で負けて姑息な動きができないようになれば良い。

さらに良いのは、バイデン候補が地すべり的な勝利を収めてトランプ大統領が亡命することです。そう願うのは最早憎しみでも政治的思惑でもありません。ただひたすらに世紀のエンターテイナーとしてのドナルド・トランプさんが繰り広げるドタバタ亡命劇を見てみたい、という野次馬根性からの思いです。

 

 

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ロックダウンのジレンマ

10月28日、フランスとドイツがほぼ同時に全土のロックダウンを発表しました。

フランスは10月30日から12月1日まで国民の移動を厳しく制限します。国民は食料などの生活必需品を購入したり病気治療などの場合に限り、証明書を持参したした上で外出が許されます。それ以外は自宅待機しなければなりません。ただし、在宅勤務が不可能なケースでは出勤が認められます。レストランやカフェほかの飲食店また生活必需品を扱わない全ての店は閉鎖。一方で学校は通常通りに授業が行われます。

ドイツのロックダウンは11月2日から一ヶ月間実施。フランスよりはゆるやかな規制が課せられます。それでもレストランほかの飲食店、映画館や劇場またスポーツジムやプールなどが全て閉鎖されます。国民は不要不急の外出や旅行を自粛し、ホテルの宿泊は仕事で出張する場合に限り許されます。サッカーなどのプロスポーツは無観客でのみ開催。学校はフランス同様に閉鎖しません。また従業員50人以下の企業には、昨年11月の売上高の75%が一律に支給されます。ドイツらしく確実に実行されることでしょう。

2国の措置は爆発的に増える新型コロナの感染を抑えるためであることは言うまでもありませんが、ここからほぼ一ヶ月の辛苦を経てクリスマスが控える12月に規制を解除したい、という思いが込められています。ほとんどがキリスト教国である欧州にとっては、クリスマスは経済的にも文化的また社会的にも、さらには心理的にも極めて重大なイベントです。そこではなんとしてもロックダウンを避けたいのです。

2国の措置は同時に、3月のロックダウンよりもゆるやかです。ましてや世界一厳しかった3月-4月のイタリアのロックダウンに比べるとさらに生ぬるい。各国がロックダウンを解除した後の、6月から9月頃にかけての欧州のコロナ状況を振り返ると、イタリアの厳格なロックダウンのみが感染拡大を抑止できていたことが分かります。

従ってイタリアと比べた場合の、フランスとドイツのいわば「準ロックダウン」がどれほどの効果をもたらすかは未知数です。それでも行動を起こさなければ独仏両国の感染爆発は制御不能になる、とメルケル首相とマクロン大統領は判断しました。そのこと自体はむろん正しい見解であるように見えます。

第1波で奈落に落ち、過酷なロックダウンによって危機を脱したイタリアも、独仏英またスペインなどの後を追いかけて再び感染拡大の危険にさらされています。イタリア政府は娯楽施設の閉鎖とレストランほかの飲食店の営業を午後6時までに制限するなどの対策を取っていますが、そうした措置への抗議デモと同時にさらなる規制強化を求める声も強まっています。

どちらの主張にも理があります。働かなければ生活が成り立たないという真実と、規制をかけなければ感染拡大が止まない、という真実がぶつかりあっています。経済社会活動が完全にストップするロックダウンを避けながら感染も抑制するためには、つまり-少なくとも有効なワクチンと治療薬が開発されるまでの間は-ある程度の経済社会活動の停滞と相当数の感染および多くの犠牲者を受け入れる道しかない、ということなのかもしれません。

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