違和感大の伊レンツィ元首相だが、暴力より一億倍マシだ

先日、マッテオ・レンツィ元首相に封筒に入った2発の銃弾が送りつけられました。犯人は分かりませんが、ここ最近レンツィ元首相はそこかしこからの恨みを買っています。

彼はことし1月、第2次ジュゼッペ・コンテ内閣から自身が率いる「Itaria・Viva」党所属の閣僚を引き上げて連立政権を崩壊させました。結果、マリオ・ドラギ内閣が誕生しました。

イタリアは新型コロナパンデミックに打ちのめされています。その最中に政治混乱を引き起こしたレンツィ元首相には、厳しい非難が投げつけられました。

「壊し屋」という異名を持つ彼は、権謀術数に長けていて、政敵はもちろん仲間でさえ容赦なくなぎ倒す手法で知られています。

現在46歳のレンツィ元首相は、29歳でフィレンツェ県知事になり、34歳でフィレンツェ市長に当選。その5年後には首相になりました。

39歳での首相就任は、それまで最も若い記録だったムッソリーニの42歳を抜いて史上最年少になりました。

レンツィ氏の若さと華々しい経歴は、驚きと期待と希望をイタリア中にもたらしました。筆者も彼の行動力とEU信奉主義のスタンスに共感を覚えました。

しかし、少しの不安はありました。彼はすぐさま腐敗政治家の象徴のようなベルルスコーニ元首相とも手を結んだからです。だがそれはまた、彼の優れた政治力の表れのようにも見えました。

そうはいうものの、筆者のその不審は残念ながら時とともに増大しました。筆者は「壊し屋」の異名どおりの彼の政治手法に違和感を隠せなくなっていきました。

筆者の違和感は多くの人の違和感でもあったようです。レンツィ首相は、人が彼を俊才と見なすよりもさらに強く自らを頼むところがあるらしく、自己過信気味の鼻持ちならない言動を多く見せるようになりました。

それが最高潮に達したのが、2016年の憲法改正を問う国民投票でした。自信過剰の絶頂にいたレンツィ首相は、「私(憲法)を取るか否か」と言うにも等しい思い上がったスローガンを掲げて、国民と政敵の憎しみを買いました。

彼は国民投票で大敗し首相を辞任しました。辞任したあとも、もはや「生来のもの」と誰もが納得した尊大な言動は止まず、しばしば人々の反感を招きました。

そんな具合に元首相にはただでも敵が多いのですが、1月の政変は特にタイミングが悪く、彼自身が「私は多くの人の怨みを買った」と告白するほどの醜聞になりました。

加えて彼は、自らが誘起した政治危機の真っ最中にサウジアラビアを訪れて、同国人記者の殺害指示やその他の疑惑でも憎まれている、ムハンマド皇太子をさんざん持ち上げる言動をしました。

それだけでも十分に不可解な行動に映るのに、彼はサウジアラビアから1000万円以上の報酬を受け取っていたことが判明しました。レンツィ元首相への非難は嵐の勢いで膨張しました。

そこに死の脅迫を示唆する銃弾送付事件が起きました。愚劣且つ幼稚な行為ですが笑って流せるような事案ではありません。政争に暴力が伴うようでは独裁国や軍政国と同じです。

実は筆者は1月の政変以来レンツィ元首相を糾弾する記事を書き続けてきました。それだけでは飽き足らず、さらなる批判を書こうと考えていた矢先に銃弾事件が発生しました。

筆者はかつて彼に大きな期待をかけました。その分失望も大きく、2016年前後から厳しい批判者になりました。1月の政変にも強い怒りを覚えました。

しかし、彼に銃弾を送りつけた蛮行には、元首相への批判など物の数にも入らないほどの憤りを感じます。卑怯・下劣な行為は強く指弾されなければなりません。

そのことを明言した上で、レンツィ元首相への抗議は続けたい。彼は一国の首相まで務めた男です。しかもれっきとした現役の政治家。彼の言動の責任はとても重い。

暴力には断固として反対しますが、それは筆者が彼への批判を取り下げるべき理由には全くならない、と考えます。

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