極右政権が誕生しそうなイタリア~多様性がそれを懐柔して保守に変えるか

イタリアでは9月25日の投票に向けて激しい選挙戦が展開されています。

世論調査によれば、右派連合が過半数を制して政権樹立を目指す見込み。

右派連合は極右の「イタリアの同胞」と「同盟」、中道右派を自称する「フォルツァ・イタリア」の3党が中心。

このうちファシスト党の流れをくむ正真正銘の極右政党「イタリアの同胞」は、左派で政権与党の民主党をわずかながら抑えて、世論調査で支持率トップを維持しています。

それはつまり右派連合が勝った場合、イタリアの同胞のジョルジャ・メローニ 党首がイタリア初の女性宰相になることを意味します。

女性か否かはさておき、極右のイタリア首相の誕生は、EUを筆頭にする世界を震撼させそうです。ところが実際には、人々は成り行きを冷静に観察しているように見えます。

それはおそらく反EUを標榜してきたメローニ党首が、その矛先を収めてEUとの共存を示唆し、ウクライナ危機に関してはロシアを否定して、明確にウクライナ支持を表明していることにもよります。

その一方で彼女の盟友のサルビーニ同盟党首とフォルツァ・イタリア党首のベルルスコーニ元首相は、ロシアのプーチン大統領との友誼に引きずられて曖昧な態度でいます。

彼らのスタンスは、ウクライナ支持で結束しているEU各国の不信を招いています。おそらくその反動もあって、メローニ党首の立ち位置が好ましくさえ見えているのでしょう。

またイタリアはEUから巨額のコロナ復興支援金を受け取ることが決まっています。

メローニ首相が誕生した場合、彼女は復興支援金を滞りなく受け取るためにも、より一層反EUのスタンスを封じ込めて、EUと協力する道を選ぶことが確実と見られています。

EUをはじめとする世界の見方はおそらく半ば以上正鵠を射ています。

そのことは2018年、議会第1党になった極左の「五つ星運動」が反EUの看板を下ろして、割と「まともな」政権与党に変貌していった経緯からも読み取ることができます。

極右のイタリアの同胞もほぼ間違いなく同じ道をたどると考えられます。3党の連立政権であることもそれに資することでしょう。

が、同時に– 五つ星運動が極左の本性もさらけ出しにしたように–彼らが主張する反移民、排外差別主義者の正体もむき出しにするに違いありません。

政治的感覚の優れたメローニ党首は、自らが主導するファシストの流れを汲むイタリアの同胞を、かつてのムッソリーニ派につながるイメージから引き離す努力を続けてきました。

それはフランスの極右、国民連合のルペン党首が、反移民・排外差別主義的なこわ持ての主張を秘匿してソフト路線で選挙を戦う、いわゆる「脱悪魔化」と呼ばれる手法と同じです。

メローニ党首は極右と呼ばれることを嫌い、ファシストと親和的と見なされることを忌諱します。だが同時に彼女は、ファシズムと完全に手を切る、とは決して宣言しません。

なぜか。言うまでもなく彼女がいわゆるネオファシスト的な政治家だからです。

ネオファシストは、反移民、ナショナリズム、排外人種差別主義、白人至上主義、ナチズム、極右思想、反民主主義などを標榜します。

メロ-ニ党首は明らかにそれらに酷似した主義、思想をまとって政治活動をしています。このうち反移民の立場は進んで明らかにしますが、他の主義主張は時として秘匿したり曖昧にしたりします。

それは彼女が、ファシズムの過去の失態と国民のファシズムアレルギーを熟知しているからです。ネオファシスト的な色彩を秘匿し曖昧にすることが、いわゆる彼女の「脱悪魔化」なのです。

イタリアのファシストはファシストを知らなかったが、ジョルジャ・メローニ党首はファシストを知っています。これは大きな利点です。彼女が過去に鑑みて、ファシズム的な横暴を避けようとするかもしれないからです。

だが同時に、彼女がファシズムの失敗を研究し尽くした上で、より狡猾な方法でファシズムの悪を実践しようとするかもしれない、という懸念もむろんあります。

なにはともあれ、今このときのイタリアの世論は、右派連合の政権奪還を容認し、メローニ党首の首相就任を「受身」な形ながらも是認しているように見えます。

それはイタリア国民が2018年の総選挙で、極左の五つ星運動の躍進を容受したいきさつと同じです。

今この時のイタリア国民の大半は、バラマキに固執する左派の政策にうんざりしていて、そこに明確に反対する右派に期待を寄せていると考えられます。

実は右派もまたバラマキと変わらない政策綱領も発表しています。だがそれは左派の主張より目立たない形での提案なので、国民は大目に見ているというふうです。

ネオファシスト的体質の、将来のメローニ首相は、ファシストではなく“保守主義者”として自らをアピールしまた政策を推進しようとするでしょう。

ファシズムを容認するイタリア国民は皆無に等しい。だから将来のメローニ首相は、国民の気分に合わせるスタンスで政権を運営すると思います。

彼女を批判する場合の最も強い言葉は、例えば保守強硬派、強権主義、保守反動などとなり、ファシストという言葉は使われないし、使えなくなるに違いありません。

ファシズムという言葉がそれだけ侮辱的で危険なものだからです。そして、繰り返しになりますが、ファシスト色を帯びた彼女の正体は、彼女自身も認めることをためらう程の悪であるからです。

そしてその躊躇する心理が、彼女のファシズム的な体質を矯正し、政策をより中道寄りに引き戻して危険を回避する効果があると考えられます。

その傾向はイタリアではより一層鮮明になります。

政治勢力が四分五裂して存在するイタリアでは、極論者や過激派が生まれやすい。

ところがそれらの極論者や過激派は、多くの対抗勢力を取り込もうとして、より過激に走るのではなくより穏健になる傾向が強い。

そこには自由都市国家が乱立して覇を競ったイタリアの歴史が大きく関わっています。分裂国家イタリアの強さの核心は多様性なのです。

イタリア共和国には、都市国家群の多様性が今も息づいています。そのため極論者も過激思想家も跋扈しますが、彼らも心底では多様性を重んじるため、先鋭よりも穏便に傾斜します。

いわば政治的に過激な将来のメローニ首相も、必ずそういう道を辿るでしょう。それでなければ彼女の政権は、半年も経たないうちに崩壊する可能性が高い。それがイタリアの政治です。

極右体質のメローニ政権が船出する場合の危険と憂鬱は、彼女自身が極右に偏り過ぎることではなく、極右政権を支持する「極右体質の国民」が驕って声を荒げ、暴力的になり民主主義さえ否定しようと動くことです。

右派が政権を奪取すると、小さな地方都市においてさえ暴力の臭いが増して人心が荒む状況になります。それは筆者の住む北イタリアの村でさえ同じです。

信じられない、と思うならばアメリカに目を向ければ良い。

ファシスト気質のトランプ前大統領が権力を握っていた間、アメリカでは暴力的な風潮が強まり人心が荒みました。

右翼の、特に極右のいかんともしがたい不徳は、昔も今もそしてこれからも、言わずと知れた彼らの暴力体質なのです。

それは極左と呼ばれるも勢力も同じであることは言うまでもありません。

 

 

 

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なかそね則のイタリア通信

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