絵空事の真実と虚無とスペクタクル

2022年9月19日、イタリア時間午前11時55分頃、習慣で定時のBBCニュースをチェックしようと衛星放送をONにしました。

するとエリザベス女王の葬儀の模様が目に飛び込んできました。

スペクタクルな絵の連続と荘厳な雰囲気にぐいと惹きつけられました。

イタリア公共放送RAI、NHK、EURONEWS、AlJazeera、CNNと次々にチャンネルを変えてみました。全ての局が生中継で儀式の様子を伝えていました。

このうちNHKの7時のニュースは、冒頭の数分間のみの生中継で別ニュースに変わりました。

BBCに戻り、腰を落ち着けて観始めました。

BBCの生中継は、その後えんえんと6時間も続きました。

RAIは見事な同時通訳付きでBBCの放送を同じく最後まで中継しました。

EURONEWSも全体を生放送で伝え続けました。CNNとAljazeerahaはその後は確認しませんでしたが、おそらく同じ状況だったと思います。

エリザベス女王がいかに英国民と英連邦の住民に敬愛されていたかが分かる式典でした。

彼らの思いは全世界の人々に伝播し、感動が感動を呼びました。世界中の放送局が熱く報道し続けたのがその証拠です。

式典にはまた、イギリスが国の威信をかけて取り組んだ跡がまざまざと刻印されていました。

エリザベス女王の死去を受けてすぐに行われた一般弔問から、遺体が埋葬されるウインザー城まで展開された壮大な葬儀式は、10年以上も前から周到に準備され、繰り返しシミュレーションされ訓練され続けてきたものです。

軍隊が式典の核を占めているからこそ完成できた大きな物語だと思います。

そこには大英帝国時代からのイギリスの誇りに加えて、Brexit(英国のEU離脱)の負の遺産を徹底して抑える意図などが絡んでいます。

むろん70年という異例の長さで英国を支え、奉仕し、国民に愛された巨大な君主を葬送する、という単純明快な意味合いもありました。

運も英国と女王に味方しました。つまりコロナパンデミックが収まった時期に女王は逝去しました。

だから英国政府は式典に集中することができ、英国のみならず世界中の膨大な数の人々がそれに参画しました。

式典の終わりに近い時間には、偶然にも米バイデン大統領が「アメリカのコロナパンデミックは終息した」と正式に述べました。

筆者は式典の壮大と、BBCの番組構成の巧みと、歴史の綾を思い、連想し、感慨に耽りながら、ついにウインザー城内での最後の典礼まで付き合ってしまいました。

強く思い続けたのは、間もなく行われるであろう安倍元首相の国葬です。

エリザベス女王の無私の行為の数々と崇高で巨大な足跡に比べると、恥ずかしいほどに卑小で、我欲にまみれた一介の政治家を国葬にするなど論外だと改めて思います。

自民党内の権力争いの顕現に過ぎない賎劣な思惑で、国葬開催に突き進む岸田政権は、もはやプチ・ファシズム政権と形容してもいい。

今からでも国葬を中止にすれば、岸田首相は自らを救い、日本国の恥も避けることができるのに、と慨嘆するばかりです。

いまこの時の日本に国葬に値する人物がいるとすれば、それは上皇明仁、平成の天皇を置いて他にありません。

平成の天皇は世界的に見れば、かつての大英帝国の且つ第2次大戦の戦勝国である英国君主の、エリザベス女王ほどの重みを持ちません。

だが平成の天皇は、戦前、戦中における日本の過ちを直視し、自らの良心と倫理観に従って事あるごとに謝罪と反省の心を示し、戦場を訪問してひたすら頭を垂れました。

その真摯と誠心は人々を感服させ、日本に怨みを抱く人心を鎮めました。そしてその様子を見守る世界の人々の心にも、静かな感動と安寧をもたらしました。

平成の天皇は、その意味でエリザベス女王を上回る功績を残したとさえ筆者は考えます。なぜならエリザベス女王は、英国の過去の誤謬と暴虐については、ついに一言も謝罪しませんでした。

英国による長い過酷な統治は、かつての同国の植民地の人々を苦しめました。むろんエリザベス女王は直接には植民地獲得に関わっていません。だが英国の君主である以上、彼女は同国の責任から無縁ではありえません。

エリザベス女王は、人として明らかに平成の天皇に酷似した誠心と寛容と徳心に満ちた人格だでした。

だが彼女は、第2時世界大戦によってナチズムとファシズムと日本軍国主義を殲滅した連合国の主導者、英国の君主でもありました。

彼女には第2次大戦について謝罪をする理由も、意志も、またその必要もありませんでした。むしろ専制主義国連合を打ち砕いた英国の行為は誇るべきものでした。

その現実は過去の植民地経営の悪を見えなくする効果もありました。だから女王はそのことについて一言の謝罪もしませんでした。しかもその態度は世界の大部分にほぼ無条件に受け入れられました。

だが、英国に侵略され植民地となった多くの国々の人々の中には、女王は謝罪するべきだったと考える者も少なくありません。彼らの鬱屈と怨みは将来も一貫して残ります。

その意味では、過去の過ちを謝罪し続ける平成の天皇は、エリザベス女王の上を行く徳に満ちた人格とさえ言えると思います。

岸田政権は姑息な歴史修正主義者の国葬に時間を潰すのではなく、世界にも誇れるそして世界も納得するに違いない、上皇明仁の国葬のシミュレーションをこそ始めるべきです。

英国政府が10余年も前からエリザベス女王の国葬の準備を進めていたように。

 

 

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なかそね則のイタリア通信

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