プーチンを排斥してもトランプが復活すれば世界は元の木阿弥だ

2022年11月15日、トランプ前大統領が2年後の米大統領選に立候補すると宣言しました。それはロシアのウクライナ侵攻に勝るとも劣らない悪い知らせです。

118日の米中間選挙で民主党が勝利したのは、アメリカの民主主義にとって、ひいては世界の民主主義にとっても幸いな結果でした。

上院で僅差の勝利、下院では逆に僅差の負けですから、あるいは民主党の勝利と呼ぶのは当たらないかも知れません。

だが事前予想では、上下院とも共和党が大勝すると見られていました。また歴史的にも中間選挙では野党が勝つのが当たり前、という明確なデータもあります。

従って政権与党の民主党が上院を制し下院でも善戦したのは、やはり同党の勝利と呼んでも構わない結果ではないでしょうか。

下院では共和党が過半数を制したため、バイデン大統領の今後の政権運営が厳しいことには変わりがありません。それでも政権がレームダック化することは避けられました。

民主党の善戦はイコール共和党の不振です。中でも選挙運動で派手に動いたトランプ前大統領の威信が落ちました。

彼は中間選挙で共和党が地すべり的な勝利を収めと予想されていたことを受け、例によってそれを自らの手柄だと吹聴しながら2024年の大統領選挙への立候補宣言をすると見られていました。

ところが中間選挙の結果が思わしくなかったため、立候補をためらうか後回しにするか、極端な場合は断念するとさえ考えられました。

だが嘘や憎悪や不寛容を武器に大衆を扇動するのが得意なトランプ前大統領は、何があっても彼を支持するネトウヨヘイト系の差別主義者らを頼りに早々と立候補を宣言しました。

そこには次の大統領選に向けて共和党内に生まれつつある新勢力、デサンティス・フロリダ州知事やペンス前副大統領などを抑え込もうとするトランプ氏のしたたかな計算があると見られています。

トランプ氏は大統領選に敗れてからも負けを認めず、2021年1月6日には支持者を教唆して米国議会議事堂を襲撃したとされています。その後も彼の岩盤支持者に呼びかけては集会を繰り返してきました。

そこではいつも通りにあることないことを自在に誇張歪曲して叫んでは支持者を焚きつけました。

彼の主張を全て正しいと考えるアメリカ国民は相変わらずに多くいて、トランプ氏を再び大統領に押し上げようとする潮流はほとんど衰えを知りません。

またミーイズムが歩いているようなトランプ氏の唯我独尊主義も変わらず、彼は冒頭で触れたように大急ぎで2024年の大統領選への立候補を表明したのです。

トランプ前大統領は2016年、差別や憎しみや不寛容や偏見を隠さずに、汚い言葉を使って口に出しても構わないと考え、そのように選挙運動を展開して米国民のおよそ半数の共感を得ました。

トランプ大統領を生み出したアメリカは、もはや民主主義国家の理想でもなければ世界をリードする自由の象徴国でもありません。

アメリカは、ネトウヨヘイト系排外差別主義者とそれを否定しない国民が半数近くを占める、「普通の国」なのです。

トランプ大統領の存在は、自由と寛容と人権と民主主義を死守しようとする「理想のアメリカ」の信奉者をくじき、右派ポピュリズムに抱き込まれた人々を勢いづかせました。

そしてトランプ主義が横行する悪のトレンドは、彼の大統領在任中ひたすら加速しました。

アメリカほど暴力的ではありませんが、ネトウヨヘイト系排外差別主義者とそれを否定しない国民が半数を近くを占める「普通の国」は、欧州を始め世界中に多い。

ここイタリアもフランスもイギリスも、そして日本もそんな国です。南米にも多い。

そうではありますが、アメリカ以外の特に欧州の国々には、トランプ登場以前の良識や政治的正義主義(ポリティカルコレクトネス)が一見優位を占めるような空気がまだあります。そのためアメリカで起きている政治的動乱を、対岸の火事のように眺める者も少なくありません。

だがイギリスには保守ポピュリストのBrexit信奉者がいて、フランスには極右のル・ペン支持者がいる。ここイタリアでは、「イタリアの同胞」を筆頭にする極右政党への支持が増え続けています。

イタリアにおける「反EU勢力」を全て合わせると、統計上は国民のほぼ半数に相当します。それらの人々は、あからさまに表明はしなくても心情的にはトランプ支持者に近い。

さらに言えば、「普通の国」のそれらの右派勢力は ― 彼らがいかに否定しようとも ― 中国やロシアや北朝鮮などの独裁勢力とも親和的なリピドーを体中に秘めています。

アメリカに関して言えば、トランプ支持者また共和党支持者に対抗する民主党も、対抗者と同様に危なっかしいと筆者の目には映ります。

民主党が対話と協調路線を追求するのは良いのですが、世界の権威主義的勢力に対抗するだけの力を秘めているとは言いがたい。

トランプ前大統領の立候補によってアメリカ国民の融和と癒しはますます遠ざかることになるでしょう。その上彼が当選する事態になれば、アメリカの民主主義は今度こそ真に危機に瀕する可能性があります。

なぜならトランプ氏の正体は民主主義者などではなく、世界の権威主義的指導者すなわち習近平国家主席、プーチン大統領、金正恩総書記らに近い、ファシスト気質の政治的放火魔に過ぎないからです。

ネトウヨヘイト系差別主義や右派ポピュリズムは、米国のみならず世界のほぼ半数の人々が隠し持つ暗部であることが明らかになりつつあります。いや、明らかになった、と言うほうがより正確でしょう。

それは憂慮するべき現実です。もしもアメリカに第2次トランプ政権が誕生すれば、プーチン大統領が引き起こした世界の混乱は―彼の失脚や生死とは無関係に―収まるどころかますます悪化して行くことになりかねません。

 

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