ゼレンスキー大統領の勇み足を憂う

ウクライナのゼレンスキー大統領が、ドイツのシュタインマイヤー大統領のキーヴ訪問を拒否しました。

シュタインマイヤー大統領が、ロシア寄りのスタンスを取り続けたことをゼレンスキー大統領が問題にしての動きですが、筆者はその頑なさに危うさを感じます。

ロシアがウクライナを侵略するまでは、日本を含む多くの西側諸国の指導者が多かれ少なかれロシア寄り、つまり親プーチン大統領のスタンスを取ってきました。

そこにはロシアを懐柔しようとする西側の打算と術数が秘匿されていました。同時にプーチン・ロシアは、西側とうまく付き合うことで得られる巨大な経済的利益と政治的なそれを常に計算してきました。

西側とロシアのいわば“化かし合いの蜜月”は、おおざっぱに言えば90年代の終わりに鮮明になり、プーチン大統領の登場によってさらに深化し定着しました。

なぜでしょうか。

西側がプーチン大統領の狡猾と攻撃性を警戒しながらも、彼の開明と知略を認め、あまつさえ信用さえしていたからです。

言葉を替えれば西側世界は、性善説に基づいてプーチン大統領を判断し規定し続けました。

彼は西側の自由主義とは相容れない独裁者ですが、西側の民主主義を理解し尊重する男だ、とも見なされたのです。

西側はプーチン大統領以前からロシアを調略する作戦を取り、ロシアをG7の枠組みに招待してG8クラブに作り変えたりさえしました。

しかしG8は2014年、プーチン・ロシアがクリミア半島を併合したことを受けて崩壊し、元のG7に戻りました。

それでもG7が主導する自由主義世界は、プーチン大統領への「好意的な見方」を完全には捨てきれませんでした。

彼の行為を非難しながらも強い制裁や断絶を控えて、結局クリミア併合を「黙認」しました。

そうやって西側世界はプーチン大統領に蜜の味を味わわせてしまいました。

西側は以後、プーチン・ロシアへの強い不信感を抱いたまま、性懲りもなく彼の知性や寛容を期待し続け、何よりも彼の「常識」を信じて疑いませんでした。

「常識」の最たるものは、欧州に於いてはもはや、ある一国が他の主権国家を侵略するような未開性はあり得ない、ということでした。

欧州の歴史は、血で血を洗う過酷な殺し合いの連続でした。それでも、やがて第1次、第2次大戦という巨大な殺戮合戦を経て欧州は生まれ変わりました。

民主主義と自由を獲得し、欧州の良心に目覚め、武器は捨てないものの政治的妥協主義の真髄に近づいて、武器を抑止力として利用することができるようになりました。できるようになったと信じました。

その欧州はロシアも自らの一部と見なしました。従ってロシアも、血で血を洗う過去の悲惨な覇権主義とは決別しているのが当然、思い込みました。

ロシアは、専制主義国ながら欧州のその基本原則を理解し、たとえ脅しや嘘や化かしは用いても、殺し合いは避けるはずでした。

ところがどっこい、ロシアは2022年2月24日に主権国家のウクライナを侵略しました。ロシアはプーチン大統領という魔物に完全支配された悲劇の国であることが明らかになりました。

ロシアは欧州の一部などではなく、またプーチン大統領は、民主主義の精神とはかけ離れた独善と悪意と暴力志向の強い、異様な指導者であることが改めて確認されました。

プーチン大統領がウクライナ侵略を正当化しようとして何かを言い、弁解し、免罪符を求めても一切無意味です。それらは全て枝葉末節であり言い逃れであり虚偽です。

事態の核心は、彼が歴史を逆回転させて大義の全くない侵略戦争を始め、ウクライナ国民を惨殺していることに尽きます。

それによって第2次大戦後に獲得された欧州の恒常的な平和が瓦解し、世界秩序が無理やり引き裂かれました。

多くの西側の指導者が突然、プーチン大統領を買いかぶっていたことに気づきました。

シュタインマイヤー大統領もそのひとりです。彼はそのことに気づいて「ロシアを支持し続けたのは間違いだった」と公式に認めました。

ドイツ大統領は象徴的な置き物で実権はありません。

彼のキーヴ訪問を拒否したゼレンスキー大統領の言葉を翻訳すると、大統領ではなく「実権を持つショルツ首相がウクライナに来い」ということなのでしょう。

ドイツはエネルギーの首根っこをロシアに掴まれている弱みから、危機の初めにはウクライナに冷たい態度を示しました。

ゼレンスキー大統領の怨みは理解できますが、ドイツを責めるのはこの場合は得策ではありません。見当違いでさえあります。

過去にはドイツに限らず多くの国が、エネルギー欲しさからもロシアにしきりに擦り寄りました。そしてドイツを含む西側のほぼ全ての国が、2022年2月24日を境にそれは大きな誤りだったと悟ったのです。

ゼレンスキー大統領は、来るものは拒まずに共鳴者を獲得し続けるべきです。敵はロシアだけで十分です。友を、味方を得ることが彼の仕事です。彼がこれまで必死でやってきているように。

シュタインマイヤー大統領の訪問を拒否することで得る、ドイツの偽善を暴く、というウクライナにとってのある種の「利益」は空しい。

ゼレンスキー大統領はシュタインマイヤー大統領を許し受け入れて、彼の訪問に感謝し今後の支援を要請していたほうがウクライナの国益に叶い、世界世論の受けも良かったのではないか、と切に思います。

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“今この時の”自由世界の旗手はマクロン次期大統領だ

4月10日のフランス大統領選では、現職のマクロン候補と極右のル・ペン候補が24日に実施される決選投票に駒を進めました。

ふたりは2017年の大統領選でも争いました。そのときの決選投票では、マクロン候補が  66%の得票率で圧勝しています。

今回の決選投票では両者が競り合う展開になっています。マクロン候補は、ウクライナ危機でプーチン大統領との対話を続ける態度が評価され、前半は極めて有利に選挙戦を進めました。

ところがその同じ危機の影響で、エネルギーや食品価格を筆頭に物価が高騰し社会不安が急速に高まりました。

ル・ペン候補はそこを捉えて、物価対策を旗印にキャンペーンを張り、中・低所得者層を取り込んで急激に支持を伸ばした、という形です。

ル・ペン候補は決選投票でも、物価高や購買力などの国内問題を強調して選挙戦を戦うことが確実です。それはウクライナ危機をほぼ無視して、フランス・ファースト主義に徹するということです。

一方のマクロン候補は、これまでのように欧州の中のフランス、ひいては世界の中のフランスの責任ある役割、というテーマを前面に押し出して戦うはずです。

彼はこれまで力を注いできたウクライナ危機への強い関与を継続し、フランスの指導力を世界に示そう、と国民に呼びかけるでしょう。

ドイツのメルケル前首相が欧州政治の表舞台から消えた今は、マクロン候補こそ自由主義世界の木鐸ともいうべき存在です。

独裁者のプーチン大統領に対抗する欧州の強い指導者は、マクロン大統領のほかには英ジョンソン、伊ドラギの両首相、EUのフォンデアライエン委員長などがいます。

だがジョンソン首相はBrexitを主導した反EU主義者です。単身キーヴに乗り込んでゼレンスキー大統領を激励した行動力はすばらしいが、正体がトランプ主義者に近い存在ですから100%は信用できません

イタリアのドラギ首相は、元欧州中央銀行の辣腕総裁という肩書きと、その肩書きに支えられた手堅い政権運営が評価されて、国内はもちろん国際的にも一目置かれてはいます。

しかし彼には、政治家に必要な高いコミュニケーション能力が欠けています。それは仲介能力が低いというのとほぼ同義語です。対話による停戦が喫緊の課題であるウクライナ危機のさなかでは、先導者を務めるのは厳しそうです。

フォンデアライエン欧州委員会委員長も、海千山千の怪物プーチン大統領と丁々発止にやりあうには、少々役者不足と言わざるを得ません。

3人のほかにはドイツのショルツ首相もいますが、彼はエネルギー問題でロシアに首根っこを押さえられていて、今のところはほとんど身動きできずにいます。存在感が巨大だったメルケル前首相に名前負けしている弱さもあって、リーダーシップを発揮できていません。

西側連合全体のリーダーはむろんバイデン米大統領ですが、彼はプーチン大統領を口を極めて罵るばかりで、今のところは対話からは遠い位置にいます。

そうして見てくると、フランス国内では‘金持ちのための大統領’などという批判もあるマクロン候補ですが、怪物のプーチン大統領と対抗できるのは、今はやはり彼が最も相応しい。

マクロン候補を抑えてフランス大統領になるかもしれないル・ペン候補は、穏健化路線の仮面を剥ぎ取れば、プーチン信奉者でありトランプ追従者です。彼女はここイタリアの極右指導者サルヴィーニ、メローニ両氏とも親和的です。

それらの反国際協調路線主義者は、各国それぞれの事情で立場に微妙な違いはあるものの、強権政治を志向する傾向がある点で中国や北朝鮮にも近い。

もしもル・ペン政権が成立した場合、ウクライナ危機に対しての欧州の結束は乱れ、米バイデン政権との仲もギクシャクする可能性が高まります。

そうなれば、言うまでもなくそれは、プーチン・ロシアへの援護射撃となることが確実です。

ル・ペン候補は彼女が牛耳る極右政党の名前を、攻撃的なイメージが強い「国民戦線」からよりソフトなイメージの「国民連合」に変え、自身の過激な言動にも封印をして穏健化路線を進めました。

それは「脱悪魔化」とも呼ばれてきた策です。

支持の拡大を図るそれらの動きはしかし、あくまでもル・ペン候補と極右政党の「死んだ振り」政策に過ぎません。彼女の正体は「脱悪魔化」というおどろおどろしい言葉が示すように悪魔的であり、彼女の政党も好戦的な極右勢力であり続けています。

それは半島北部の独立を目指したここイタリアの北部同盟が、より全国区の協調路線をイメージさせようとして、党名を「同盟」と改名したことと同じ姑息な手段です。反移民・反イタリア・反EUの同盟は、「北部同盟」時代と中身は何も変わらず極右の剣呑な政党であり続けています。

彼らはトランプ主義者であり白人至上主義者です。加えていえば日本のネトウヨ・ヘイト系排外外差別主義者らとも親和的な政治勢力です。

またル・ペン候補もサルヴィーニ同盟党首も、はたまたトランプ前大統領も、いずれも隠れなきプーチン信奉者です。その周囲には中国もぴたりと寄り添って、隙あらば取り入り取り入れようと画策しています。

マクロン大統領は、フランス政界の分断をうまく捉えて極左と極右を痛烈に批判し、彼が「責任ある中道勢力」と呼ぶ層をまとめて国を引っ張ってきました。しかしその手法は選挙では、2017年ほどの明確な成功には至らず、ル・ペン候補の激しい追い上げに遭っています。

選挙戦の出だしではマクロン候補が大差でリードしていると考えられていました。しかし、先に触れたように、ウクライナ危機がもたらす疲弊と急激なインフレが社会不安を招き、それへの対応を最優先すると訴えるル・ペン候補に庶民の支持が集まりました。

世論調査によるとフランスでは、極左と極右を合わせた過激派への国民の支持率が5割を超えています。それはここイタリアの状況にも似ています。もっといえば、アメリカのトランプ主義勢力、英国のBrexit支持派、などとも通底している現象です。

さらにいえばそれらの政治勢力は、たとえ表立ってその素振りを見せていなくても、潜在的にはロシアのプーチン大統領とも親和的な政治力学です。

だからこそ真っ向からその勢威と張り合うマクロン大統領の存在は、自由と民主主義にとっての、今このときの最重要な拠り所なのではないか、と考えます。

 

 

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プーチン信徒もはびこるイタリアの深層 ‘真理’

前回エントリーで、プーチン大統領を受身に擁護する、ジュゼッペ・コンテ前イタリア首相を批判しまし

彼の名誉のために付け足しますと、プーチン大統領を名指しで非難しないイタリアの有力政治家は、ほかにも少なからずいます。

その筆頭がマッテオー・サルヴィーニ同盟党首です。極右とも規定される同盟のトップは、かねてからプーチン大統領を崇拝し、彼を称揚する言動を堂々と展開してきました。

サルヴィーニ党首は先日、ウクライナからの難民に連帯を示したいと称してポーランドを訪れましたが、プーチン大統領支持の正体を見抜かれて現地の人々の総スカンを食らいました

サルヴィーニ党首は、プーチン大統領とともにトランプ前大統領も敬仰しています。

同党首はポーランドで叱責を受けた際、ロシアのウクライナ侵攻は良くないことだ、としぶしぶ認めましたが、その後はコンテ前首相と同じく、決して“プーチン”という名を口にせず、むろんロシアを非難することもしません。

一方、支持するとまでは表明しないものの、沈黙を守ることでプーチン大統領を擁護した、もう一人の大物政治家もいます。ベルルスコーニ元首相です。

プーチン大統領と親密な元首相は、ロシアがウクライナで殺戮を繰り返すのを目の当たりにしながら、当初は同大統領を全く批判しませんでした。

ベルルスコーニ元首相はおよそ一ヵ月後、これまたしぶしぶという風体でロシアの蛮行を初めて非難しました。

そして4月9日、自身が党首を務めるFI党の党大会で「プーチン大統領には失望した」と強い調子で友人の独裁者を糾弾しました。

遅きに失した感はありますが、だんまりを決め込んだり、消極的にあるいは受け身にプーチン大統領支持に回るよりは増しといえます。

醜聞にまみれたベルルスコーニ元首相には多くの批判があります。だがそのことはさて置いて、彼は政治的には、いわゆる「欧州の良心」から大きく逸脱することは一貫してなかった、と筆者は思います。

プーチン大統領を援護する勢力は、イタリアにおいても左右の極論者が多い。左の代表が前述したようにコンテ前首相であり、右の極論者がサルヴィーニ同盟党首です。

彼らはトランプ主義者である点でも共通しています。

筆者が知る限りコンテ前首相は公にトランプ前大統領を称揚したことはありません。だが彼の上に君臨する五つ星運動創始者のグリッロ氏は、紛れもなくトランプ礼賛者でありプーチン追従者です。

コンテ前首相は、残念ながら彼のボスに倣って、ここのところは“プーチン”という言葉を一切口に出さない主義を貫いています。

そのようにイタリアでは、他の先進民主主義国では中々見ることができない衝撃的な政治実況に出くわすことも珍しくありません。

つい先日まで首相の座にあった者や10年近くも首班を務めた政治家、あるいは世論調査で支持率1、2位を争う政党の党首などが、今このときのロシアの蛮行を見て見ぬ振りをしたり、あまつさえ支持したりするのは、ほとんどあり得ないことではないでしょうか。

イタリアではそれが堂々となされることも少なくありません。

イタリア政治の特徴は多様性です。それは傍目には混乱に映ることも多い。

事実、混乱も起きますが、イタリア共和国は混乱では崩壊しません。国家の中にかつての自由都市国家群が息づいているからです。

仮にイタリア共和国が崩壊しても、歴史的存在の自由都市国家群はしぶとく生き残って、さらなる歴史を継承していくことが確実です。

イタリア共和国とは、つまり、決して崩壊しない一つ一つの自由都市国家の集大成です。従ってイタリア共和国自体もまた崩壊することはない、とも言えます。

むろんイタリアが民主主義国家であり続ける限り、イタリア共和国の「民主的な解体」はいつでも起こり得ます。

そのイタリア共和国は、たとえばBrexitに走った英国や、国民連合が台頭するフランス、またドイツのための選択肢を抱えるドイツなどとそっくり同じです。

つまりそれらの西側諸国がプーチン・ロシアの愚行を受け入れることがないように、イタリア共和国がプーチン大統領の悪行に寄り添うことはあり得ません。

そうではあるもののイタリアの国民的合意には、イタリア的多様性がもたらす不協和音に似た耳障りな響きも、またくっきりと織り込まれているのが常なのです。

 

 

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馬脚をあらわしたか、ジュゼッペ・コンテ前首相

イタリアは2024年までに防衛費をGDP(国内総生産)の2%に引き上げるとしたNATOとの合意を反故にしました。

連立政権を構成する五つ星運動の党首、コンテ前首相が激しく反対したからです。

コンテ前首相は、2019年に当時首相だった自分自身がNATOと約束した防衛費の増額を否定したのです。

それによって彼は、右顧左眄と民心扇動が特徴的なポピュリスト政党のトップであることを如実に示しました。

彼の主張は五つ星運動の目玉であるバラマキ策、「最低所得保障(reddito di cittadinanza」とも深く結びついています。

コンテ氏が首相だった2019年、五つ星運動のゴリ押しが功を奏して、イタリア政府は低所得者層に一定の金額を支給し始めました。

コンテ政権は同年、NATOとの防衛費増額にも合意したのです。

ところが最近になってコンテ前首相は、イタリアを含む欧州が、プーチン・ロシアに侵略されるかもしれない危険に備えるための防衛費増は認めない、と声高に主張し始めました。

弱者を援助するという名目で票集め用に金をバラまくのは構わないが、安全保障は天からの恵みで自然に備わるものだから気にしなくてもよい、とでも考えているのでしょうか。

イタリア共和国がロシアによって破壊された場合、貧者も富裕者も関係がありません。誰もが等しく地獄に落ちます。そんな瀬戸際に陥らないための防衛費増です。

NATOとEUを含む欧州各国が、歴史を大転回させるほどのロシアの凶行に太平の夢を破られて緊張し、欧州全体を守るために団結して即座の防衛費増を決めました。イタリア一国の問題ではないのです。

言うまでもなく弱者は救済されるべきです。だがそれは国が存続してはじめて可能になります。国が破壊されたら弱者への援助どころか、金持ちも貧乏人も何もかも消滅します。

今はその大本の真理のみを凝視して、原則に立ち返る努力をするべき時ではないでしょうか。

それをしないで詭弁を弄するのは、ロシアのプーチン大統領が「主権国家を侵略してはならない」という 原理原則を踏みにじっておきながら、細部を持ち出して言い訳や詭弁や強弁を声高に主張するのとそっくり同じ行為です。

ドラギ政権は、コンテ前首相の強硬な反対に遭って、NATOとの合意を変更せざるを得なくなりました。五つ星運動が連立政権内の最大勢力だからです。

過激派は得てして― それが右か左かには全く関係なく― 常識を一気に飛び越えて極論に走ります。

この場合は極左の五つ星運動が、大本の議論を無視して、たとえロシアからミサイルが飛来しても先ず貧者を助けろ、とわめいているに等しい。

五つ星運動はベーシックインカム(最低所得保障)導入に関しても、同じ偏執論理で突っ走りました。

だが貧者を援助するための財源は働く人々の税金から出されます。ならば先ず働く人々を助けるべきです。

同時に働かない、あるいは働けない人々を、働くように仕向けることが重用です。つまりバラマキの前に、仕事を生み出す知恵を働かせるべきなのです。

その上で貧者に手を差し伸べる政策を強化すれば、誰もが納得します。

だが彼らは端からその努力を怠って、財源には全く目を向けることなく金をバラマクことばかりを目指しています。そうすれば投票してもらえるからです。

コンテ前首相はイタリアがコロナ地獄の底で苦悶していた2020年、強い意志と勇気とポジティブ思考で国民を鼓舞し、厳しい全土封鎖を断行してイタリアを危機から救いました。

筆者は彼の力量を大いに評価して、そこかしこで褒めそやし喧伝しました。

また彼が首相退任後に五つ星運動のトップに迎え入れられた時は、筆者が強い違和感を抱き続けてきた五つ星運動を、彼が根底から変えてくれるのではないかとさえ期待しました。

コンテ氏は首相時代に五つ星運動の支持を受けてはいましたが、そこの所属ではなかったのです。

だが彼は今や、大衆迎合主義政党「五つ星運動」の、過激な本性を身にまとっただけの極論者になりつつあります。いや、元々そうだった正体が、コロナ禍の混乱が去りつつある現在、徐々に表に出てきた、というのが真実に近いのでしょう。

コンテ前首相は、ウクライナで残虐行為を続けているプーチン大統領を支持する、という信じがたい迷妄の底にも沈んでいます。

正確に言えば、コンテ前首相は、彼のボスである党の創始者、ベッペ・グリッロ氏の「金魚の糞」化して、戦争勃発以来ひと言も「プーチン」という言葉を口に出さす、ロシアを表立って批判することもありません。

彼のボスがそうしているからです。あるいはふたりは示し合わせてそうしているのかもしれません。

コンテ前首相は、確信犯的にプーチン大統領の名前を口にせず、同時に彼の蛮行から目をそらすことで、プーチン大統領を援護しているのです。

彼が党首を務める五つ星運動は、親中国、親ロシアのポピュリスト政党です。また同党は反体制、反EUも標榜しています。

彼らは古い政党や腐った政治家をインターネットを介して糾弾する、という目覚しい手法で急速に支持を伸ばしました。

イタリア政界にはびこる腐敗政治家を指弾しようとする姿勢はすばらしい。また弱者に寄り添おうとする取り組みも共感できます。

だが彼らには創造的な政策案がありません。働く人々が稼いだ国庫の富を、無条件に貧者に分け与えろ!と叫ぶばかりです。

その公平な分配法、財源、不正防止策などにはお構いなしです。そして致命的なのは、繰り返しになりますが、貧者のためまた国民のために仕事を創出する、という視点がないことです。

そうした無責任な体質が、党首であるコンテ前首相のプーチン大統領への「受身の支持」を招き、NATO軽視、安全保障無視のスタンスを呼び込んでいます。

彼らが極左のポピュリスト、と規定され批判されるゆえんの一つです。

極左、とは過激派という意味です。その部分では彼らは、右の過激派である極右の同盟やイタリアの同胞などと寸分違わない。極論には右も左もないのです。

コンテ前首相はつまるところ、左の過激派と呼ばれても仕方のない言動に終始しています。

プーチン・ロシアの脅威を排除するための軍事費の増額を批判して、その金を貧者に回せ、と叫ぶのは平和時なら正しい。

しかし平和が危機にさらされている状況では、まず平和維持を追求するのが筋です。

また、蛮行に突っ走るプーチン大統領を、コンテ前首相がこの期に及んでも批判しない了見は、全く理解できません。それどころかほとんど狂気の沙汰とさえ感じます。

2020年のイタリア全土ロックダウン時の彼の八面六臂の活躍は、もはや帳消しになったと言っても過言ではないでしょう。

残念至極なことです。

 

 

 

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ヒトラーはヒトラーを知らなかったが、プーチンはヒトラーを知っている

ウクライナのブチャでロシア軍が行ったらしい大規模虐殺が明らかになりました。

それを示す衝撃的な絵の数々は、あるいはプーチン大統領の運命を決定付けた可能性があります。

敢えて言えばその運命とは、彼は死なない限りもう救われない、ということではないかと思います。

プーチン大統領の異様な性状については先に言及しましたが、あまりにも深刻な状況に見えるので、重ねてここにも記しておきます。

プーチン大統領はヒトラーではありません。彼はユダヤ人ほかの抹殺を目指したホロコーストは「まだ」引き起こしていません。

子供たちを含むウクライナの人民を虐殺し、政敵を弾圧し謀殺し、情報操作によってロシア国民を欺き、世界に殴りかかっているだけです。

そしてそれらの悪逆無道な行為の数々を以ってしても、あるいは彼の悪はヒトラーの悪を上回ることはないのかもしれません。

だがプーチン大統領は、「ヒトラーを凌駕する魔物」とも規定されるべき、不吉な性根を秘めてそこに存在しています。

不吉さは彼がヒトラーを知っている事実から来ます。

ヒトラー自身はヒトラーを知りませんでした。ヒトラーはまだ歴史ではなかったからです。片やプーチン大統領は、ヒトラーという歴史を知っています。

それは彼が、「ウクライナを侵略した大きな動機の一つは、ウクライナからナチス勢力を排除すること」と、明確に主張している点からも明らかです。

プーチン大統領は、ヒトラーの悪魔性を知悉した上で、なおかつヒトラーを髣髴とさせる暴虐に突き進みました。

ウクライナを侵略するまでのプーチン大統領を、世界はまともな心情と哲学と知性を備えた強い指導者とみなしてきました。

自由主義世界は、彼の一風変わった政治スタイルを、強権主義的風潮が割と普通な、ロシアという「普通ではない」国のリーダーゆえの奇矯、と捉えていわば見て見ぬ振りをしてきました。

その姿勢は、プーチン大統領が基本的には自由や寛容や、そしておそらく民主主義でさえ支持しているだろう、という根拠のない性善説によって担保されました。

だがプーチン大統領は、自由と民主主義と開明を空気のごとく当たり前に謳歌してきた、欧米と日本を含む西側世界全体の思い込みをあっさりと破壊しました。

彼はわれわれが性善説に当てはめて、2022年2月24日まで稚拙に思い描いてきたプーチン・ロシア大統領ではありません。、

彼は常人のわれわれの世界の向こう側にいる、ヒトラーと同類の得体の知れない何者かなのです。

われわれはそのことをしっかりと認識しつつ、今後のウクライナ情勢とそれに影響されまた規定されていくであろう、世界のあり方を見つめ続けるべきです。

 

 

 

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プーチンは末代まで指弾されるべき罪を犯した

プーチン大統領が停戦に応じるのではないかという見方と、逆にさらに険悪な展開に持ち込むのではないかという意見が交錯しています。

プーチン大統領が停戦に肯定的らしいという見方は、彼が3月17日、トルコのエルドアン大統領と行った電話会談のあとに広がりました。

会談の中でプーチン大統領は、 ウクライナが中立を保つと同時に北大西洋条約機構(NATO)への加盟を申請しないことを条件とする、と一方的に伝えました。

それに対してウクライナのゼレンスキー大統領は、「NATOには加盟できないと認識している」と公言するなどして、譲歩する姿勢を示してきました。

ロシアはまた、ウクライナが中立状態になるために軍縮を完了すること、国内のナチス的勢力を排除すること、同国内でロシア語を保護することなど、メンツを保ちたいだけらしいやや重みに欠ける要求なども明らかにしました。

だがプーチン大統領の真の狙いは、ウクライナ東部のドンバス地方の割譲や、2014年に強奪したクリミア半島の永久ロシア領土化などが含まれる、という見方が根強くあります。

さらにウクライナを2分して、一方を北朝鮮化させる意図もあると言われます。それどころか、大帝国ロシアの復活を目指して、バルト3国ほかの国々に侵攻、併合する計画さえもあるとされます。

プーチン大統領が胸の奥に秘めているかもしれない壮大な計画は、決して荒唐無稽とは言えません。ロシアがウクライナに侵攻した当初は、多くの人々が彼の野望を危惧しました。

だがロシア軍が前線で躓き、ウクライナを支持する欧米が速やかに一致団結し、世界の大半も欧米に同調して反プーチンの世論が形成されると、プーチン大統領の大望は挫かれて滑稽な様相さえ呈し始めました。

しかしプーチン大統領自身は、骨の髄まで“密偵”に違いない彼の正体に即して行動を続けました。

平然と嘘をつき、強権を行使して情報統制に躍起になり、核兵器の使用まで示唆して、ウクライナのみならず世界全体を恫喝しています。

停戦に向けたウクライナへの要求も、エルドアン大統領との会談後は合意に至るのが不可能な内容に終始。意図的にしか見えない手法とレトリックを駆使して、時間稼ぎを繰り返しています。

それでも戦況そのものとプーチン大統領に対する世界の民心は、ひたすら逆風となって吹きまくっているのが実情です。

国内世論を弾圧している彼には、軍部や側近らが戦況や国際世論の情勢を曲げて伝えて、結果プーチン大統領は多くの判断ミスを犯した、という憶測もあります。

それらもいわば情報統制です。国民を抑圧して情報を遮断し歪めた付けが、プーチン大統領自身への情報規制となって跳ね返ったに過ぎません。因果応報というべきものです。

停戦が実現するか戦争が泥沼化するかは、むろん予断を許しません。追い詰められたプーチン大統領が、生物・化学兵器や核兵器を使用する悪夢のような展開の可能性も依然として懸念されます。

だがどんな経過をたどるにしても戦争は必ず終結します。そのときプーチン大統領がまだ生きているなら― そしてもしも停戦が明日にも実現する僥倖があったとしても ―プーチン大統領は決して許されるべきではありません。

人は間違いを起こします。だから罪を犯した者もいつかは許されるべきです。なぜならその人は間違ったからです。人が犯した間違いと罪を決して忘れてはなりません。だが人は究極には許されるべきです。

それが人と人が生きていく世界の縄墨であるべきです。人は許しあうときに真に人になるのです。

だがその規範は、果たしてプーチン大統領にも当てはまるのでしょうか。

ロシア側に即して事態を吟味した場合、プーチン大統領の行為にはなるほどとうなずけるような歴史や、事実や、出来事などがないこともありません。

だがそれらの“細部”は、プーチン大統領が「文明世界ではもはやあり得ない」と思われていた侵略戦争をいとも簡単に引き起こし、無辜の人民を殺戮している蛮行によって全て帳消しになりました。

彼がたとえ何を言い、弁解し、免罪符を求めても一切無意味です。それらは全て枝葉末節であり言い逃れであり虚偽となったのです。

事態の核心は、彼が歴史を逆回転させて大義の全くない侵略戦争を始めたことに尽きます。それによって第2次大戦後に獲得された欧州の恒常的な平和が瓦解しました。

その重大な事実と共に、ウクライナに殺戮と破壊をもたらした張本人として、プーチン大統領は末代までも指弾されなければなりません。

その一方で彼は、早い段階で停戦に応じた場合、あたかも善行を行ったのでもあるかのように見なされて、なし崩しに罪を許されてしまう可能性も十分にあります。

しかし凡人で非寛容な筆者は、とても彼を許す気にはなれそうもありません。もしも彼が許されるなら、ヒトラーも許されるべきではないか、とさえ思います。それはあり得ないことです。

ヒトラーは間違いを許されるべき衆生ではありません。彼は衆生の対極にいる魔物です。あるいはわれわれ衆生が魔物と規定せずにはいられない異形の存在です。

プーチン大統領はヒトラーではありません。彼はユダヤ人ほかの抹殺を目指したホロコーストは「まだ」引き起こしていません。子供たちを含むウクライナの人民を虐殺し、政敵を弾圧しロシア国民を虐げているのみです。

だがプーチン大統領は、「ヒトラーを凌駕する魔物」とも規定されるべき不吉な縁を性根に帯びています

つまり、ヒトラー自身はヒトラーを知らなかったが、プーチン大統領はヒトラーを知っている、という真実です。

彼はその上で、敢えてヒトラーを髣髴とさせる残虐行為に及びました。

それは極めて危険な兆候です。彼はわれわれが性善説に当てはめて、2022年2月24日まで思い描いてきたプーチン・ロシア大統領ではありません。ヒトラーと同類の、衆生の向こう側にいる得体の知れない何者かなのです。

われわれはそのことをしっかりと認識しつつ、今後のウクライナ情勢とそれに影響また規定されていくであろう、世界のあり方を見つめ続けるべきです。

繰り返して言います。

人は間違いを犯します。従って間違いによって生まれた罪はいつかは許されるべきです。しかしながらプーチン大統領が犯している間違いと罪を許すのは容易ではありません。

それは神のみが下せる険しい審判のひとつ、と言ってもかまわない命題です。

 

 

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干天にひたすら慈雨を待つ

北イタリアは厳しい旱ばつに見舞われています。昨年末からほぼ4ヶ月に渡って雨も雪もまったく降りません。

北イタリアを貫く大河ポーが、枯渇寸前まで水位が下がり大きな問題になっています。

これが夏の出来事なら強い危機感で息苦しささえ覚えていたことでしょう。

昨年夏、イタリアは熱波に襲われました。

南のシチリア島では、欧州で過去最高気温となる48,8℃が記録されました。

雨も少なく、暑さとともに乾燥が続いて山火事が相次ぎました

冬の間の水枯れが異様に感じられるのは、あるいは昨夏のおどろきの暑さと渇水と山火事の記憶が、未だに強く残っているせいかもしれません。

なにしろポー川が冬に枯渇する様を、少なくとも筆者は見たり聞いたりした記憶がありません。

筆者の季節感覚は、近年は菜園の移り変わりとともに多感になったようです。

雨や雪や日照りや寒暖などを野菜に関連付けてあれこれ思案します。

今の干天も大いに気になります。

いや、正確に言えば、春が来てそろそろ菜園の準備を始めようと思い立って以来、空を見上げ、雲の動きを追いかけ、しきりに天気予報をチェックするようになりました。

3月に入ってから少しづつ堆肥を埋め込み、小さな耕運機を動かし、土を覆うマルチをはずしたり移動したりして準備を進めました。

ここ1週間ほどは動きを加速させました。

それというのも、3月30日の水曜日を皮切りに大雨が降る、との予報が出たからです。

その前に土つくりを済ませて種をまき、また雨の後の植え付けや播種にも備える作業をひと息に進めました。

土つくりはほぼ完了しました。サラダを始めとするいくつかの野菜の種もまきました。

今日は、これからCOSTE(フダンソウ)の種を畑に直まきします。

いつもはプランターに苗を作りますが、古い種を整理する意味と直まきトライを兼ねての初の試みです。

作業を済ませたら、あとは静かに雨を待とうと思います。

イタリアの天気予報は最近はかなり正確になりました。

明日はおそらく恵みの雨がやって来ることでしょう。

ウクライナでは人々が苦しんでいます。それを思うと心痛は絶えません。

だが、むごく且つ理不尽ながら、こちら側の時間は何事もなかったかのように平穏に進んでいきます。

 

 

 

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プーチン憎しでバイデン節が絶好調だ

ロシアがウクライナへの激しい攻撃を続ける一方で、停戦へ向けての交渉や各国の仲介協議また外交活動も活発に行われています。

印象としては、プーチン大統領がコワモテの独裁者を実演しつつ、ウクライナ潰しがうまくいかないことへの焦りから、停戦も模索している雰囲気です。

だがその間もプーチン大統領は、ウクライナで無垢な人々を殺戮し続けている、というのが2022年3月28日現在のウクライナ戦争の実相であるように思います。

そんな中でNATOの会議に出席したバイデン大統領が、彼の得意な絶好調失言をやらかして米政権幹部や欧州首脳らを困惑させました。

バイデン大統領は帰国直前、ポーランドのワルシャワで「プーチンはロシア大統領の地位にとどまるべきではない」という趣旨の発言をしました。

バイデン大統領はあらかじめ用意されていた原稿を読み終えたあとに、彼自身の思いつきでそう発言して演説を締めくくりました。

ありていに言えばバイデン大統領は、「プーチンを権力の座から引きずりおろす」と宣言するにも等しい発言をしたのです。当然のようにその言葉は激震を招きました。

ブリンケン国務長官をはじめとするバイデン政権の幹部やスタッフは、大統領はロシアの政権の転覆を意図して発言したのではない、と火消しに躍起になりました。

またマクロン大統領をはじめとする欧州首脳も発言におどろいて、バイデン発言を批判。

マクロン大統領は「停戦合意を追求するなら、言葉でもアクションでもエスカレートしないようにするべき」とやんわりと米大統領に釘を刺しました。

マクロン大統領は戦争勃発以降、3月22日までにプーチン大統領と合計8回、またウクライナのゼレンスキー大統領とも20回近い会談を行っています。停戦に向けて懸命に動いているのです。

バイデン大統領の失言癖は今に始まったことではありません。彼は副大統領時代にも多くの失態を演じ、大統領になってからもその性癖は変わっていません。

バイデン大統領はロシアがウクライナを蹂躙してこの方、プーチン大統領を「凶漢」「人殺しの独裁者」「戦争犯罪者」などと公に罵倒してきました。それらの表現も失言と見なす人々が多くいます。

今回の発言も彼の失言と捉えられています。戦争の激化を避け停戦を模索する西側陣営のリーダーの発言としては、それは失言以外のなにものでもない、と筆者も思います。

なぜならその言葉が外交慣例にそむき、ロシアを刺激し、なによりもプーチン大統領に絶好のプロパガンダの機会を与えてしまう可能性があるからです。

プーチン大統領はその言葉尻をとらえて、大義の全くないウクライナへの侵略が、彼の政権を転覆させようと企む西側への対抗手段だ、などとも強弁しかねません。

バイデン大統領の勇み足は従って糾弾されるべきものです。

だが同時に、人間としてのバイデン大統領の行為は賞賛されるべきものだとも筆者は思います。

「プーチンを権力の座から引きずり下ろせ」という思いは、プーチン大統領自身とその取り巻き、また世界中のトランプ主義者及び排外差別主義者以外の誰もが、今このときに胸に抱いている願いではないでしょうか。

感情移入が激しいとされるバイデン大統領は、ウクライナを逃れてポーランドほかの国々に避難している多くの子供やその母親たち、また破壊されたウクライナの惨状を間近に見、感じて、人としての憤りに我を忘れたところがあるのでしょう。

彼の憤懣もまた世界中のほとんどの人々が共有する感情です。

バイデン大統領はかつて、ロシアが蛮行に及ぶ予兆を知った時に、小規模の侵攻なら制裁しない、といつものボケをかましました。

さらにロシアがウクライナを襲いかかると、メリカは軍事介入をしない、と言わぬが花の真実を強調しまくるミスなども犯しました。

彼はそこでは、「いかなる侵攻も侵攻であり決して許さない」と表明し、「アメリカは軍事介入をする覚悟がある」と示唆して、プーチン大統領をけん制するべきだったのです。

それらの失態は、彼が老害大統領と陰口を叩かれても仕方がないミスです。

だがプーチン大統領と彼の周りの権力を、歯に衣を着せずに糾弾する言葉は、人々の思いをストレートに代弁している分、失言とばかりは言えないのではないでしょうか。

少なくともプーチン大統領の悪を指摘することで、反プーチン世論を喚起し彼を追い詰めて停戦へと向かわせる効果がないとは言えません。

その一方で、追い詰められたプーチン大統領がさらに凶暴になる、という逆効果を招く可能性ももちろん否定はできないのですが。

 

 

 

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ロシア包囲網に於けるイタリアの立ち位置

新聞、テレビ、ネットをはじめとするとするありとあらゆるメディアが、昼も夜もそして真夜中でさえも、ウクライナにおけるプーチン・ロシアの蛮行をこれでもかとばかりに伝え続けています。

戦争は世界中で一日の休みもなく行われています。だが情報開示が当たり前に展開されている欧州で、実戦が進行するのはきわめて異例のことです。

欧州は紛争や対立を軍事力で解決するのが当たり前だった野蛮且つ長い血みどろの歴史を経て、それを話し合いと外交で解決しようとする進歩的且つ教化された民主主義の道を確立しました.

片やロシアは、未だそこに至らない未開国であることが明らかになりました

情報を隠し、歪め、虚偽を垂れ流すプーチン・ロシアは欧州の一部ではありません。それはアジアです。

ここで言うアジアとは、民主主義を理解しない中国的、アラブ的、日本右翼的勢力の全てです。つまり未開で野蛮で凶悪なアジア的精神。

敢えて日本のみに目を向ければ、残虐でどう猛で卑怯な戦闘集団だった旧日本軍と軍国主義日本の過去を直視しようとせずに、むしろそれを隠蔽し否定し都合のよい情報のみを言い立てて、歴史を修正しようとするネトウヨ系排外差別主義勢力のことです。

自由と民主主義を謳歌する西側世界は、アジアに属するロシアとは全く逆の社会状況にあります。そこでは横暴と悪意と欺瞞に支配されたプーチン・ロシアの情報操作の実態が、あらゆる角度から暴かれています。

欧州の全ての国は、ウクライナ危機が自国にとって対岸の火事ではないことを実感しています。ウクライナが陸続きで地理的に近く、且つ欧州の過去の血みどろの大戦や闘争の記憶が全ての人々に共有されているからです。

そして何よりもロシアのプーチン大統領が、民主主義の精神とはかけ離れた独善と悪意と憎悪にまみれた異様な指導者であることが再確認されたからです。

ロシア包囲網に断固とした意志で参加しているイタリアは、歴史的にロシアと親和的な関係を築いてきました。イタリアが長く欧州最大の共産党を有してきたからです。同じ動機でイタリアは中国とも親しい

それはだが近代史における政治ゲームに過ぎません。統一国家であるイタリア共和国の真髄には、独立心旺盛で自由な都市国家群がいきいきと息づいています。イタリア共和国の核心は政治ゲームの主体ではなく、それらの都市国家がもたらす多様性なのです。

国家構成の基盤に多様性が居座っているイタリアは、対外的にも多様で実践的な政治体制を維持しています。敢えてひとことで分かり易くいえば、イタリアは世界中のあらゆる国と親和的なのです。少なくともその意志を秘めて世界に対しているのがイタリア共和国です。

それは八方美人とか日和見主義を意味するのではありません。自立志向の強い都市国家群を統一国家内に含む場合の必然の帰結です。言葉を変えれば中央政府は、国内にある多種多様な意見や意思を絶えず尊重し耳を傾け続けなければなりません。

そのスタンスは対外的にも増幅されてイタリア共和国の立ち位置を規定していきます。つまりそこでも多様性を重視する姿勢になります。イタリアは歴史的にもまた思想的にも、誰とでも共存しなければならない性根を持っています。あるいは誰とでも親和的でなければならない性根に縛られています。

イタリアとロシアは、地理的には遠い立場ながらも歴史的に良好な関係を保ってきました。専門家の中にはその状況を指して「イタリアは欧州におけるロシアのもっとも親しい国である」と断定する者さえいます。

イタリアはプーチン大統領自身とも友好的な関係にあります。その善し悪しまた好悪は別にして、現代イタリア最大の政治的存在であるベルルスコーニ元首相は、プーチン大統領とは親友同士とさえ呼べる仲です。

86歳の元首相は2022年3月19日、性懲りもなく53歳年下の女性と3回目の結婚式を挙げました。彼の友人のプーチン大統領は、もしもウクライナへの暴力行使で忙しくしていなければ、おそらく結婚式に出席していたことでしょう。

また極右政党「同盟」と「イタリアの同胞」のサルヴィーニ、メローニの両党首は、相変わらずプーチン大統領を賞賛して止みません。イタリア中がプーチン大統領の残虐な戦争に怒りをあらわにしているため、彼らも戦争反対と口では言っています。だが本心は相変わらずプーチン万歳というところでしょう。

ポピュリストの彼らは時勢が右といえばそれに追随し、左といえばそれに媚びます。節操もなく信義もなく核もない。あるのは粗暴で抑圧的な感情と怒りです。

そして極右の2政党とベルルスコーニ党が手を組んで選挙に臨めば、イタリアは世論調査の数字上は、明日にでも彼らに統治されることがほぼ確実な情勢です。

だがそれらプーチン愛好家の人々の願いも空しく、イタリア政府は今のところはNATOまたEUとぴたりと歩調を合わせてロシアに歯向かっています。そしてロシアは、イタリアを敵性国家と規定しエネルギー供給を止める、などと脅してさえいます。

イタリアはエネルギー源であるガスの90%を国外から輸入していて、総輸入量の45%がロシア産です。イタリアはEU加盟国の中では、ガスの5割以上をロシアから購入しているドイツに次いでロシアへの依存度が高いのです。

2014年~15年のクリミア危機では、イタリアの当時のレンツィ政権は、ロシアと関係が深い国内のエネルギー業界の抵抗に遭って、ロシアに対して強硬措置を取ることができませんでした。ドイツもほぼ同じ状況でした。

だが両国は、今回のロシアの蛮行に際しては、揃って立ち上がって他の国々と歩調をあわせロシアに対峙しています。

イタリアが速やかに行動できたのは、ドラギ政権の力によるところが大きい。

2021年に政権を握ったマリオ・ドラギ首相は、ほぼ全ての政党が一致団結して政権を支持している事実と、首相自身の求心力の強さを背景にEUにぴたりと寄り添い、対ロシアへの強硬路線を取っています。

イタリアはロシアがウクライナに侵攻して間もなく、1億1千万ユーロをウクライナ政府に提供すると表明しました。またNATOには、今後2年間であらたに1億7千400万ユーロの貢献をすることも決めました。同時にウクライナ難民には、難民申請を出さなくてもイタリア滞在が可能になる措置を取っています。

さらにイタリアは、ひとまず合計約5000人の兵士をウクライナ周辺国へ送る決定も下しました。ハンガリーとルーマニアにはそのうちの3500人が派遣されます。ルーマニアでは同国の空軍をイタリア空軍が指導しサポートします。

加えてイタリアは、ウクライナ危機を国家非常事態宣言下に置くことも決定しました。それによって政府はコロナ禍中と同様に、緊急の規制や法律を国会の承認を得ることなく施行することが可能になります。

イタリアを含む欧州は、静かにだが断固とした意志で、プーチン独裁政権に対抗して臨戦態勢に入っていると形容しても過言ではありません。

 

 

 

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コロナ後はサラミをみやげに日本に帰りたい

まだ希望的観測の類いですが、コロナが終息しそうだからと、日本帰国に備えてお土産を考え始めました。

するとそこにウクライナ危機が勃発して、気分が元の重さに逆戻りしてしまいました。

コロナも戦争もなく、欧州もむろん日本も平和だったころ、筆者は新聞に次のような趣旨のコラムを書きました。

             イタリアみやげ

かさばらない、腐らない、気どらない。それでいてイタリア的、とういうのが僕の日本へのおみやげ選択の条件である。例えばとてもイタリア的なものであるワインはかさばる。また美味いチーズや生ハムは腐りやすい。デザイン系の装飾品やファッションなどは気どる。

試行錯誤を経てたどりついたのがサラミである。

サラミはかさばらず、腐らず、気どらず、しかも大いにイタリア的である。イタリアの食の本筋である肉のうま味が凝縮されていて、そのうえ優れた保存食という重大な一面もある。ところが、サラミは都会の人々には好まれるものの、田舎ではあまり人気がない。生ハム等に比べると香りや味に特徴があって、慣れない者には食べづらい印象もある。そのせいかどうか、たとえば東京あたりの友人知己には喜ばれるが、地方では人気がない。

僕の故郷の南の島々では、豚肉がよく食べられるのに豚肉が素材のサラミはもっと人気がない。地方の人は日本でもイタリアでも新しい食べ物を受けつけない傾向がある。いわゆる田舎者の保守体質というものであろう。

生まれも根っこも大いなる田舎者である僕は、白状すると、イタリアに来て丸2年間ほぼ毎日食卓に出るサラミを口にできなかった。2年後に思い切って食べてみた。

以来、今ではサラミや生ハムのない食事は考えもつかない。

僕は自分が体験した喜びを親しい人々に味わってもらおうと、いつもサラミを島に持ち帰っている。だが、あまり歓迎されないおみやげは贈る自分もあまり喜ばず、正直少し疲れを覚えないでもない。


日本はその後、、口蹄疫、ASF(アフリカ豚熱)、高病原性鳥インフルエンザなどの家畜伝染病の侵入を防ぐため、という理由で海外からの肉や肉製品の個人持込みを全面禁止しまた。

筆者のイタリア土産の主力打者であるサラミももちろん持ち込み禁止になりました。

イタリアは衛生管理の厳しい先進国です。言うまでもなくサラミや生ハムほかの製品は、峻烈な生産工程を経て店頭に出ます。

しかもイタリアの加工肉の種類の豊富と品質は、日本が逆立ちしてもかなわない。またその安全性はまぎれもなく世界のトップクラスです。

肉製品だけに関して言えば、あるいは日本のそれよりも安全であり安心できるとさえ感じます。

なので筆者は、サラミの日本への持ち込み禁止措置なんて一時的な対策に過ぎない。すぐに解除になると考えました。

ところがどっこい2019年、禁止措置は緩和どころか逆に強化されて、海外からの畜産物の持込みには3年以下の懲役、または最高100万円の罰金が科されることになりました。

しかもそれだけでは終わりませんでした。

翌2020年7月には家畜伝染病予防法が改正され、懲役年数は同じですが罰金は最高300万円にまで引き上げられたのです。

正直、目が点になりました。鎖国メンタリティーの日本の面目躍如、と思いました。

コロナ禍中での外国人締め出し措置にも似た、日本独特の異様な政策だと今も思います。

趣旨は分かるのです。島国の利点を活かした厳格なやり方で、合理的に行えば感心できます。

だが、日本人と外国人の区別をしないウイルスをつかまえて、日本人の入国はOKだが外国人はNGというのでは、排外差別主義的な政策だと批判されても仕方がありません。

肉製品の全面持込み禁止措置は、いうまでもなくコロナ政策と同じではありません。だが、コロナ対策に似たいわばヒステリックな思い込みが見え見えでうっとうしい。

あえてイタリアと日本の間柄だけに限って言います。

イタリアの加工肉の最高傑作である生ハムやそれに匹敵するサラミの日本への持込み禁止は、例えばイタリア政府が「イタリアでは寿司や刺身の消費を厳禁する」と言い張ることがあるとしたなら、それと同じ程度に愚劣きわまりない政策です。

 

 

 

 

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