心折れる週末を生きる 


イタリア全土に苛烈な移動制限に象徴される重い隔離・封鎖・監禁令が出されて初の週末を迎えました。

土曜日の昨日は、朝早い時間は一見なんの変哲もない週末の始まりに見えました。が、9時頃から「不要不急の外出を控えてください。自宅に留まって週末を過ごしてください」と繰り返しスピーカーで呼びかける役場の広報車が通りました。

今日は3月15日の日曜日。朝6時現在のイタリアの新型コロナウイルス感染者数は:

前日から3497人増えて21157人。死者の数は1441人。回復した者が1996人。

治癒者が死者の数を上回っているのがわずかな光明ですが、感染爆心地のここロンバルディア州では医療崩壊が間近に迫っています。いや、もう始まったと言うほうが正しいのかもしれません。病院に運び込まれるCovid19患者の数が収容能力の限界に達しているのです。

朝5時半起床。シャワーを浴びて朝食の後、イタリア随一とされる新聞Corriere della Sera の電子版が伝える、AM6時のCovid19関連リアルタイム状況をチェック。それが上記の数字です。

その直後、思いついて家の南窓からA4高速道路の交通量を確認しました。それが冒頭に掲載した2枚の写真です。同じポイントをヒキとヨリで切り取っています。

A4高速はミラノとベネチアを結ぶ自動車道。イタリアで最も重要な高速道とされます。1日24時間常に交通量が多く、文字通り片時の休みもなく大小の車が高速で行き交っています。

窓を開けて耳を澄ますと、A4高速を疾駆する車の音が重なって風の口笛のように響きます。ガラス窓を閉めるとその音は聞こえなくなります。わが家から高速道路まではそういう距離です。

A4高速はミラノを経てトリノからフランスまたスイスへと通じ、ロミオとジュリエットの街ベローナを介してオーストリアへと伸びます。そこからドイツ他の北欧各国につながります。

またベネチアからはスロベニアを横断して東欧全域へと伸びていきます。A4自動車道はイタリア経済の担い手である北部イタリアと、欧州全体を結ぶ経済の大動脈なのです。

イタリアの高速道路網の中では、太陽道とも呼ばれるA1高速が最もよく知られています。それはミラノからローマに直結し、さらにナポリほかの南イタリアへと伸びるもう一つの大動脈。

A1自動車道は、南下するに連れて輝きと熱気を増していく陽光を追いかける、いわばバカンス・ロード。だから“太陽道”なのです。

わが家はミラノとベニスの間のミラノ寄りにあります。高台になっていて、写真のように窓から東西に走るA4高速道が見えます。晴れた日には地平線の彼方にアペニン山脈の山々を望むこともできます。

冒頭にある右の写真中央、2軒の家の間の向こうに見える明るい四角の箱は、A4高速道を左のベネチア方向から右のミラノ方向に向けて進む大型トラックです。まだ夜が明けきらないために荷台を電気で飾りつけて走っています。

トラックの姿は5分近く待ってようやく捉えることができました。普段なら5分の間には、たとえ真夜中や早朝でも数え切れないほどの車両が高速で駆け抜けます。

ところが、今朝はほとんど車の姿が見えませんでした。それは日曜日の早朝という時間帯のせいだけではありません。イタリア全土が新型コロナウイルスに直撃されて呻吟し息をひそめているからです。

わが家の北の窓によると、スキーリゾートのあるカンピオーネ山がすぐ近くに迫り、遠方には前アルプス(アルプスへと伸びる北イタリアの連山)の山々の峰が望めます。

またわが家の西の角には筆者の仕事場兼書斎があります。そこの窓に寄ると自家のブドウ園が真下に見え、それは集落の家々の連なりを経て他家の 広い 何枚ものブドウ園へと伸展していきます。

広大なブドウ園の連なりの中を練ってのびる道路上には、今この文章を書き進めている午前11時現在、車の往来がありません。ましてや人影など文字通り皆無です。

窓から見えている村の集落内にも10人余りのCovid19患者がいます。そしてその先のミラノ方向に広がるロンバルディア州の全体は、いつ起きてもおかしくない医療崩壊の恐怖と死の影におびえています。

むろん窓から眺める村の集落もロンバルディア州の一部なのですが、表面はまるで平和ボケに浸る幸せな田園地帯、とでも形容したくなるような穏やかな景色です。

週末なのに筆者の心は全く弾まみません。弾むどころか沈うつそのものです。それでも先刻、ほんの少しほっとする知らせがありました。

自己申告の外出許可証(外出趣意書)を携行すれば、住民票のある村以外の場所での買い物も可能だ、と近くに住む友人がSNSで知らせてきたのです。

厳しい移動制限下では、基本的には自分の住まう自治体内での買い物が原則ですが、スーパーマケットで食料などを購入する場合は、少し離れた地域でも許されるとのこと。

筆者は、自分の村の集落内にあるスーパーでの買出しを少し重荷に感じていましたから、ほっとしました。そこは店内スペースが狭い上に品揃えも薄い。筆者がほしい鮮魚などは扱ってさえいません。

しかし品揃えの貧弱は実はそれほど問題ではありません。気になるのは店の規模です。田舎とはいえ村里の内に建つ店は土地が狭く、従って店舗も小さい。中では買い物客が押し合いへし合い動く、という印象があります。

普段ならその状況は、家族的で友好的、というふうに捉えることもできるでしょう。が、コロナウイルスが猛威を振るう現状では少し気が引けます。移動管制下の今は、店内に入る時は列を作って1人づつ順番に進むというルールはあるものの、人混みはできれば避けたい、というのが人情です。

そんなわけで、やや下賎で且つしみったれた根性だと我ながらいやにならないでもありませんが、郊外の広々としたスーパーで買い物ができるらしい知らせが嬉しい。買い物とはほとんどの場合食料の買出しです。今のところはその予定はありませんが、重苦しい空気の中でのささやかな朗報、と感じ入っています。

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銃声の聞こえない戦争 

イタリアの新型コロナウイルス感染者数は3月11日、ついに1万人超えの節目を経て、さらに増加を続けています。ロンバルディア州ほか北部の一部地域に限られていた移動制限などの厳しい隔離・封鎖措置は、全土に拡大施行されました。

3月9日、筆者は自身の管理するブログ

「封鎖地域内に閉じ込められたとはいうものの、僕の暮らしにはそれほどの変化はなく、隔離されたという実感もない。それはおそらく封鎖域がイタリアでも最大級の、且つ人口も1000万人以上になる、ロンバルディア州の全体であることが理由なのだろう。一昨日初めて感染者が出て、今日までに3人に増えた僕の住まう小さな村がその対象であったなら、きっと強い窒息感に見舞われていたことだろう。」


と書きました。

ところが個人の移動制限を柱とする規制は翌10日から徐々に強められ、またたく間にイタリア全土に適応されることになりました。住民はそれぞれの住まう自治体(日本の市町村)内に留まることを義務付けられました。仕事や病気やその他の緊急事態が理由の移動は許されますが、移動許可証を携帯しなければなりません。筆者はあれよという間に自分の住まう小さな村に閉じ込められることになったのです。

第2次世界大戦以来ともいわれる厳格な規制措置の内容は、 まず今述べたうむを言わさない厳重な移動管制。結婚式や葬式を含む全ての集会の禁止。カフェ、バール、レストラン、美容院、また日常必需品店以外のあらゆる店の完全閉鎖です。

一方、営業できるのは薬店、スーパー、食料品店。ほかにはガソリンスタンド、自動車修理工、キオスク(新聞売店)、タバコ屋、銀行など。またバスや列車などの公共交通機関はストップしない。さらに配管工など日常生活を支える職人も活動を許されます。

タバコ屋が開くのが不思議です。もしかするとそれは税収を失いたくない国の思惑なのでしょうか。あるいはまた、どうせ不可解なコロナウイルスに殺される命なら、せめて正体が明らかなニコチンで国民を殺してやろうという国家の親心かも、と嗤ってみたい気がしないでもありません。

全ての国民(むろん筆者のような外国人居住者を含む)は、住まいのある自治体(市町村)内での移動のみが許されます。たとえ隣の町や村であっても訪問は許されず、必要不可欠な場合のみ許可証(自己申請)持参で通行できます。必要不可欠な場合とは、仕事や病気や事故などにまつわる移動のこと。

要するに全ての国民は、不要不急の外出をせず基本的に自宅に留まれ、ということです。違反した者は3ヶ月の禁固刑、または重い罰金が科される。今のところ前述の禁止条項に当てはまらない業種での就労は認める、としていますが状況によってはさらなる締め付けが予想されます。

筆者は今回の規制のおかげで、普段買い物に出かける5軒のスーパーの全てが、自分の住む村ではなく隣接する自治体内にあることを初めて知りました。仕事でもプライベートでも遠出をすることが多く、足元の村のことをほとんど知らなかったのです。それらの店は全て車で10分以内の距離にあり、規模が大きく品揃えも豊富です。

だが今後は村内のスーパーで買い物をしなくてはならなくなりました。人口1万1千の村の領域はそれほど狭くはなく、スーパーもいくつかあります。しかしどの店も規模が小さく、鮮魚をはじめ多くの品が置かれていません。それが筆者の足が遠のく主な理由だったのですが、これからはそこだけが頼れる場所になってしまいました。今は我慢するしかありません。

買出しの不便を除けば、しかし、筆者は移動制限ほかの封鎖措置にそれほどの不自由は感じません。仕事も家でできるもの以外は全てキャンセルするか延期にしました。それは筆者の都合のみならず、相手の都合もからんでの成り行きです。なにしろ誰もが厳しい隔離・封鎖、また規制の中に置かれています。お互い様なのです。

今日3月13日AM6時現在のイタリアの総感染者数は15113。このうち1016人が亡くなり1258人が治癒しました。従って感染者の実数は12839人です。この数字は中国以外ではイランや韓国を抜いて最も高く、感染者が激増しているフランス、スペイン、ドイツなどに比較してもまだ圧倒的に多い人数です。

そうした過酷な現実を前にしては、辛い首かせも致し方ないと考えます。不便だがおそらくそれらは必要な規制です。予防措置や防衛手段や安全保障策は、過剰すぎるぐらいのほうがちょうど良い。なぜなら危機が過ぎた後で「大げさだったね」「バカだったね」と皆で笑い合うほうが、その時になって泣くよりも1億倍も望ましい未来だからです。



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井戸端会議はコロナウイルスの巣窟

2020年3月10日AM6時現在、イタリアのCovid19患者は前日より1797人増えて合計9172人に。また死者の総計は463人。

ロンバルディア州が事実上封鎖された3月8日から9日にかけては、1日の死者数が133人にも上って欧米のメディアが大きく取り上げる事態になりました。

9日から今日にかけての増加数は97人。依然として死者の数は多く、死亡率も異様に高い。が、ともあれ、1日あたりの増加は133という数字よりは低くなりました。133人増がピークであったことを祈ろうと思います。

イタリアのCovid19の死者のほとんどは、これまでのところ基礎疾患のある高齢者です。死亡者数が多いのは、イタリアが欧州随一の高齢化社会だから、という説明がなされます。

その説は今のところ、当のイタリアを含む欧州内のほぼ定説になっています。だが筆者は、個人的には違和感を禁じ得ません。死者の数が余りにも多い。それは将来考察されるべき事案ではないかと思います。

高齢者を含むCovid19の患者は、封鎖・隔離されたロンバルディア州を主体に増え続けて、医療体制の崩壊さえ懸念される危機に陥っています。

国と州は退職して年金生活に入っている医師に現場復帰を呼びかけ、看護学生などを含む医療関係者やボランティアの動員も進めています。

崩壊の危機にあるロンバルディア州の医療のレベルは、英国のBBCなどが「世界レベル」と形容するのを待つまでもなく、他の欧米先進国や日本などと同様に高い。北部のほとんどの州もそうです。もっともそれは残念ながら南に行くほど下がるのですが。

ロンバルディア州ほかの地域が封鎖され、イタリア全体も非常事態の体制下にありながら感染拡大が止まないのは、多くの国民が移動や外出を控えないことも大きな原因の一つです。

イタリアで先月、真っ先に封鎖されたロンバルディア州ほかの11の自治体の住民で、警察と軍の検問をくぐり抜けて夫婦2人でスキーに行ったケースや、南部の家族を訪ね歩いたりした者などがいます。

彼らは訪問先でCovid19を発症するなどして悪行が表に出ましたが、その前に移動中や立ち寄り先などでウイルスをばら撒いた可能性が高い。似たような悪行で表面化していないケースも必ずあるでしょうから、事態は深刻です。

社交好きで活動的な国民性もウイルスの拡散に寄与していると考えられます。老若男女がそうですが、特にたとえば男性高齢者などは、バールと呼ばれるカフェに集まってワインを飲みつつ日がな一日カード遊びに興じます。

そうでない者は広場や公園に蝟集して、政治を語り噂話に没頭します。イタリア国民は女性に限らず男も極めておしゃべりで、井戸端会議が大好きなのです。

外出をして社交にいそしみ活発に動き回るこの国の習俗は、人に会うときに握手をしハグをしまた互いに頬にキスをする習慣などと同様に、完全に歯止めをかけるのは難しい。加えてお上や権威の命令に従うことを善しとしない民族性もありますからなおさらです。

イタリアのみならず欧州全体でも初のCovid19の犠牲者となった78歳のイタリア人男性が先月、バールでの集いの間にウイルスに感染したと見られているのも象徴的な例のひとつです。

また封鎖の検問を逃れて他州にスキーに行った、前述のCovid19患者もイタリア的といえばイタリア的です。「高齢者」と報道されているその夫婦は、家でじっとしていることに耐えられずにスキーリゾートへと逃亡したのです。

ロンバルディア州が封鎖される直前に、急ぎ感染者の少ない南部の実家に逃れた人々も多い。封鎖された後も抜け道を探って移動する者が続出しているという報道もあります。彼らが無自覚にウイルスを拡散していないとは言えません。

そうした無責任で利己的な行動は、何もイタリア人だけの特権ではありません。人間全ての性でしょう。が、時として自制心が欠落しているのではないか、といぶかるほどに自由奔放なイタリア人メンタリティも、Covid19危機を増長させているのではないか、と筆者は恐れます。

権威や権力を嫌い、規制や規則に縛られることを善しとせず、ちゃらんぽらんにも見える明るさで活発に行動するイタリア人はすばらしい、と筆者は思い、だからこの国に住まうことを愛してもいます。だが今は、彼らに息をひそめてじっとしていてほしい、と願うばかりです。

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コロナウイルスでは花は枯れない

2020年3月8日AM8時現在のイタリアのCovid19死亡者は233人。感染者の総数は5883人に上ります。それは韓国に次ぐ世界3番目の数字ですが、死亡者数は韓国よりも多い。

感染の拡大が止まないことを受けてイタリア政府は、ロンバルディア州全体とその近隣の北部の州のうち、14県の封鎖・隔離を決定しました。

合計約1600万人の住民が4月3日まで居住地域からの移動を禁止され、違反者には3ヶ月の禁固刑が科されることになりました。

ロンバルディア州内に住む筆者も州境を超えての移動ができなくなりました。

住民の移動制限ばかりではなく、封鎖地域内では大学を含む全ての学校、体育館、プール、博物館、スキー場、ナイトクラブ等々が閉鎖され、結婚式や葬式を始めとするあらゆる宗教儀式も禁止されます。

レストランや喫茶店などは午前6時から午後6時まで営業してもよいとされますが、客席は最低1メートル以上離して設置しなければなりません。

とはいうものの、住民はできるだけ自宅に留まり、特に75歳以上の高齢者や65歳以上の病弱者は外出を控えること、と強く要請されています。

高齢者が敢えて名指しで注意を喚起されるのは、イタリアのCovid19死亡者が群を抜いて多く、しかもそのほとんどが老人であること。またイタリアが欧州で最も高齢化の進んだ社会である現実があるからです。

封鎖地域内に閉じ込められたとはいうものの、筆者の暮らしにはそれほどの変化はなく、隔離されたという実感もまだありません。

それはおそらく封鎖域がイタリアでも最大級の、且つ人口も1000万人以上になる、ロンバルディア州の全体であることが理由なのだろうと思います。

もしもそこが一昨日初めて感染者が出て、今日までに3人に増えた筆者の住まう小さな村がその対象であったならば、きっと強い閉塞感に見舞われていたことでしょう。

加えて実は筆者は、2月から3月にかけて日本に帰る予定でした。そのために今の時期のスケジュールはほぼ空白になっていて、移動計画などもありません。だから余計にプレッシャーを感じません。

しかしながら普通に働き活動している人々にとっては、移動制限を始めとするさまざまな日常生活の規制は、大きな犠牲を強いられるものだろうと思います。

はからずも今日3月8日は女性の日。イタリアでは女性に黄色いミモザの花を贈って祝います。だがCovid19騒ぎでどこもかしこもそれどころではない様相です。

それでも春の息吹はあたりに充満していて、日差しもけっこうまぶしく暖かい。ブドウ園に隣接する筆者の家の庭にも、白色ピンクの木蓮の花が咲いています。

また窓から望む前アルプスの山々(南アルプスへと続くイタリア北部の連山)も、頂はまだ雪に覆われているものの、木蓮に注ぐ光と同じ暖光に包まれて、春の精気を発散させています。

コロナウイルスは花を枯らすことはできません。季節の行く手を阻む力もありません。それどころか、輝かしい春の陽光に焼き尽くされて、あるいは消滅してしまうかもしれない。

たとえ消滅しなくても、花の香と季節の活気を味方につけた人々の知恵が、必ずそれを撃滅することでしょう。撃滅すると信じて隔離封鎖の不便を受け入れていこうと思います。

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正念場か、イタリア

2020年3月5日AM7時現在、イタリアの新コロナウイルス感染者は3089人。COVID-19による死亡者は107人に上昇。 これは過去24時間で28人が新たに死亡し587人の新規感染が確認されたことを意味します。

ここ数日は感染者は毎日およそ500人単位で増え続け死者の数も多い。どちらも不安な傾向ですが、実は治癒した人もこれまでに276人と増えてはいます。少しの朗報かもしれません。

感染はついに筆者の住まう人口約1万1千人の村(※1)にも及んで、昨日村で初めてのCovid-19患者が出ました。いつかこうなるかもしれないと予想していましたから、やっぱり、という思いと、まだ信じられないという思いとが交錯する暗うつな心境を持て余してます。

筆者の住む村から封鎖されているロンバルディア州の感染爆心地までは、直線距離で50キロメートル余り。すぐそこと形容してもいい近さですが、ここまで普段通りの生活をしてきているため緊迫感はありませんでした。しかし居住地域内に患者が出たことで少し状況が変わり始めました。

村での感染者発生のニュースを追いかけるように、封鎖されている北部イタリアの11自治体に課されているルールを全国にも適用する、と先ほど政府が決定しました。そのせいで事態の深刻さをあらためて思い知らされた気分にもなっています。

全国に適用するルールとは即ち、大学を含む全ての学校の閉鎖、図書館や博物館などに始まる公共施設の公開規制や閉鎖、イベントや集会の禁止、レストランやカフェやバーなどの閉鎖または営業短縮など、など。

また人との挨拶の際に握手やハグや頬へのキスを避けるように、という要請も政令に盛り込まれました。さらに人と会う時には1メートル以上の距離を置き、75歳以上の高齢者や持病のある65歳以上の人は外出を控えること、ともしています。

少しばかげたように見える条項まであるそのガイドラインは、COVID-19に取り憑かれたイタリアの必死の思いがてんこ盛りにされているようで、少々悲しい。だが人々は、真剣に政府の要請に応えようとしているような雰囲気が感じられます。

昨日、スーパーを巡って飲食物の買出しをしました。店はどこも平穏そのものでした。筆者が「感染爆発」と形容している集団感染が明らかになった直後の24日にも同じような行動をしました。その時は幾つかの店の精肉売り場に異変がありました。製品棚が空だったのです。

それは週末の感染爆発騒ぎに不安を覚えた人々のパニック買いの結果のように見えました。が、よく考えてみるとこの国には、金曜夜から日曜日の間に食料を食べ尽くした人々が、週明けの月曜日にどっと買い物に出る習慣があります。ですから先週目にした肉売り場の異変は、その習俗も重なっての現象だったのではないか、と静かな店内を見回していまさらながら思ったりしました。

ついでに県庁所在地の街まで足を伸ばしました。車で20分ほどの距離です。中華食材店で豆腐を買おうと思ったのです。しかし豆腐はありませんでした。新鮮な豆腐は火曜日と金曜日にミラノから運ばれます。だが金曜日にもまた前日の火曜日にも配達がなかったとのこと。むろんCOVID-19が原因です。

店は閑散としていましたが、以外にもイタリア人買い物客が2,3人いました。中華食料品店は普段でもあまり込み合うことがないので静寂は気にならなかったのですが、店員が皆マスクをしているのが印象的でした。イタリアも他の欧米諸国と同じで人々がマスクを付ける習慣はありません。COVID-19騒動でさすがにそれを付ける人は増えましたが、基本的に異物扱いで敬遠されます。

店員の中国人たちは、多人数の客に接するので防御のためマスクを付けているのでしょうが、いつもとは違って胡散臭く感じたのは、こちらの心理の微妙な波立ちのせいだったのでしょう。ちなみに筆者を含む客は誰もマスクを付けていませんでした。

じわじわとあたりの空気が淀んでいくようないやな気配がイタリア中に漂い始めています。COVID-19はまだ良く得体が知れずワクチンもありません。それがいやな気配の正体ですが、冷静にしていれば近い将来必ず平穏が戻るに違いない。だが人々の不安は消えません。

不安感があたりに暗いものを呼び寄せています。そうした中、人々の心に明かりを灯すような出来事もありました。COVID-19の蔓延を受けて休校となったミラノの高校の校長が、社会の現状を過去のペスト流行時の恐怖になぞらえて、「デマに振り回されることなく冷静に行動するように」と学校のホームページを介して全校生徒に語りかけ感動を呼んでいるのです。

ペストは過去に繰り返し欧州を襲った疫病です。14世紀の流行では欧州の人口のおよそ半分(3割~6割と学説に幅があります)が死滅し、世界では1億人が死亡したとされます。イタリアでは人口の8割が死んだ地方さえあります。校長先生は、ペストに襲われた17世紀のミラノの混乱とパニック、また恐怖を描いた小説を引き合いに出して、デマや妄想や集団の狂気に惑わされることなく普通に日々を送りなさい、と生徒を鼓舞しています。

校長はまた、現代の医学は14世紀や17世紀とは格段に違って進歩している。それを信じて休校のあいだ理性と秩序に基づいた生活を送り、読書をし、また機会があれば散歩に出かけて日々を楽しみなさい、とも言います。それでなければペスト(即ちCOVID-19)が私たちを打ち負かしてしまうかもしれません、と締めくくりました。

今イタリアに、また日本に、そして世界に求められているのは、まさにこの校長の主張する「デマに惑わされず冷静に普通に社会生活を送ること」です。それができれば、さらなる感染の拡大でさえ「恐るるに足らず」と構えていられる、と確信を持って思うのはおそらく筆者だけではないでしょう。


※1 イタリアには市町村という名称はなく、自治体は全てComune(コムーネ=コミューン)と呼ばれます。ローマやミラノなどの大都市も人口数百人の小さな集落も全て同格のComune(自治体)です。筆者は自身の住まう田園地帯のComuneを勝手に「村」と規定しています。

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自主規制

2020年3月5日AM7時現在、イタリアの新コロナウイルス感染者は3089人。COVID-19による死亡者は107人に上昇。 これは過去24時間で28人が新たに死亡し587人の新規感染が確認されたことを意味します。感染者は毎日およそ500人単位で増え続け、死亡者の数も多くなっています。

筆者はこのブログを含むSNS上で、イタリアのCOVID-19関連情報を発信してきました。その際、新型コロナウイルスに対する不安を象徴的に表すような絵を敢えて使ってきました。それはウイルス禍が速やかに消え去ることを信じつつ、恐怖に押し潰されないように殊更にそれを笑い飛ばす、という意味合いを込めての投稿でした。

しかしながら日伊を含む多くの国々での感染拡大は止まず、むしろ加速する状況です。残念ながら犠牲者も増え続けています。そうした中では筆者の記事の絵の意図が伝わり難くなっていると感じます。それどころか、見方によってはあるいはそれを不謹慎と感じる方もいるかも知れません。

そこで、将来COVID-19が克服されて世の中が明るく平穏になるまで、行過ぎて不安を煽るように見えるかもしれない絵をいったん削除し、別の絵に置き換えることにしました。ご了解を願います。

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止まらないイタリアの武漢化

2020年3月1日AM8時現在のイタリアの新型ウイルス感染者は1128人。このうち死者は29人。多くは基礎疾患のある高齢者です。また治癒した者は50人。なお感染者1128人にはこれらの治癒者も含まれます。

治癒した人々を除いてもイタリアの感染者数は千人を越えました。相変わらず中国、韓国に次いで世界3番目の感染者数です。

また、数字は週末初めのデータなので、日曜日の今日の実際の感染者数はさらに増えていると考えられます。それは月曜日に明らかになるでしょう。

ちなみに今この時の世界中の全ての感染者数は86983人。このうち中国本土の感染者数は79824人、韓国が3526人、日本はクルーズ船関連を除いて241人です。

イタリアの新型コロナウイルス感染者数は、2月21日から22日にかけて、それまでのわずか3人から229人へと爆増しました。北部ロンバルディア州の小さな町で集団感染らしいケースが発生したのです。

イタリア政府は即座に町とその周辺自治体を封鎖しました。警察と軍隊が出動してのシビアな動きです。非常事態を通り越して戒厳令の様相さえ呈していました。

またイタリア政府はそれ以前の先月末、中国での新型ウイルス感染爆発が明らかになるや否や、世界でいの一番に中国便を全面禁止にしました。その動きは中国を激怒させると同時に世界を驚かせました。

その素早い決断は、主としてパンデミックへの恐怖からなされたものでした。イタリアの果敢な措置は、ウイルスをシャットアウトするのに有効と見えました。ところがそのときには既に遅く、イタリアには中国発の新型ウイルスが多く侵入していた、という状況であったようです。

それがロンアバルディア州での感染爆発になりました。そればかりではありません。厳しい封鎖措置で同地域からの感染拡大は阻止されているはずなのに、感染は場所を選ばずに広がっています。そのことがウイルスの以前からの深い侵入また浸透を表しているように見えます。

なぜ欧州の多くの国の中でイタリアがあっけなくcovid-19の巣窟になってしまったかを考えると、筆者はどうしてもイタリア政府の失策を指摘せざるを得ません。

イタリア政府は2019年3月、低迷する経済へのテコ入れを主な理由に中国の「一帯一路」への支持を表明。そこからさらに一歩踏み込んで、G7国として初めて中国政府と連携する旨の覚書を交わしました。

「一帯一路」構想に対するEUやアメリカなどの警戒感に不安を抱いていた習近平政権は欣喜雀躍。イタリアとの友好を急速に且つ強力に推し進めました。結果、中伊の関係は深まりヒトとモノの往来が急増しました。

イタリアは欧州の他の観光大国をあっさり追い抜いて、中国でもっとも人気の高いヨーロッパの訪問先となり、中国人観光客も急激に増えました。その結果イタリアは、フランス、スペイン、イギリスなどの観光人気国を尻目に、Covid-19にも深く愛される国になってしまった。。

今のところ筆者のこだわるところを指摘する論者はイタリアにはいません。あえて言えば、ミラノの生体医療専門家が、新型コロナウイルスは遅くとも1月半ば頃にはタリアに侵入していた可能性が高い、と主張していることぐらいです。

さらにそのことに関連して、新型コロナウイルスは中国では昨年の12月ではなく、夏の終わりから秋口にはすでに蔓延していたかもしれない、と言い出す医療専門家もいます。たとえそうだとしても、恐らく中国は永久にそれを認めることはないでしょうが。。

だがイタリアに新型コロナウイルスが早い時期から侵入していたかどうかについては、今後調査研究が深まる過程で明らかにされる可能性があります。いうまでもなく今重要なことは、感染拡大の終息であって、ウイルスの襲来時間の解明ではありませんが。

イタリアにウイルス感染が拡大した不幸は、あるいは単純にイタリアが安全対策を怠ったことが理由なのかもしれません。あっと驚くような優れた部分と、間の抜けただらしない面を併せ持つのが、イタリアという不思議の国です。

世界で初めて中国便をシャットアウトするような危機管理能力の高さを示す一方で、破れた網で新型コロナウイルスを一網打尽にしようとでもするような、杜撰な防御策があるいは実行されたのかもしれません。その答えは遠くない未来に必ず明らかになることでしょう。


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0号患者違い

イタリア北部の11の自治体が封鎖される原因となった集団感染の0号患者について誤報がありましたので訂正します。

2月22日のエントリー(掲載は27日)記事「イタリアの落とし穴」で

“~北部ロンバルディア州の街で集団感染にも近いケースが発覚しました。38歳のイタリア人男性が新型コロナウイルスに感染し男性の妊娠中の妻も感染。また男性が所属しているスポーツクラブのメンバーや医療関係者などにも感染していることが次々に明らかになっています”

と書きました。

そこで言及した38歳のイタリア人男性とは、いわゆる0号患者(インデックス・ケースindex case)のことでした。だが正確には彼は、集団内の最初の患者である0号患者ではなく、第1号患者です。

38歳の男性は中国に行ったことはなく、彼が発病前に会っていた友人の男が上海を訪ねていました。するとその友人の男が最初の患者、つまり0号患者と見られたのですが、ウイルス検査は陰性と判明。そのため38歳の男性がどこでどのように感染したのか分からないまま、感染拡大が続いている、というのが今現在の状況です。

当初の情報では、38歳の男性は武漢を旅した、となっていましがそれは友人が訪ねた上海の間違いだったようです。ふいに感染者が続出した混乱の中で、世界恐慌の震源地である武漢の名がごく自然に独り歩きをした、ということなのでしょう。

なお、0号患者である可能性がある上海帰りの友人が、陰性と判断された後も繰り返し検査を受けたがどうかは不明です。ウイルス検査には間違いが多いという情報があります。日本のクルーズ船の乗客の検査でも、最初の検査は陰性で2回目に陽性と出たケースがあったと記憶します。

イタリアの医療のレベルは高く、十分に信頼に値します。またペストなどの伝染病と戦ってきた歴史もあり、他の欧州の先進国と同様に疫病の調査、予防、治療にも熟達しています。従って0号患者かもしれない上海帰りの友人の扱いに抜かりはなかったとは思います。が、少し気にならないでもありません。


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ザ失われた環~ミッシングリンク

当サイト「ピアッツァの声」の

https://cannapensante.com/

ベニスカーニバルもサンレモ音楽祭も取り憑き殺す激爆ウイルス

から

コロナウイルスよりも毒性の強い魔物

までの

間の記事4本が下書きのまま投稿されずに残っていました。そこで本日(2月28日)一斉に公開しました。記事は時系列に:

1「イタリアの落とし穴

2「バタフライ・エフェクト

3「戒厳令も敷けるのが真の民主主義かも

4「パニクらないパニック

です。

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パニクらないパニック

2020年2月25日(伊時間)現在、イタリアの新型コロナウイルス感染者数は231。死者7人。全員が高齢者で基礎疾患がありました。今のところ感染は北部イタリアに集中しています。大部分がミラノが州都のロンバルディア州と、ベニスが州都のヴェネト州。

ロンバルディア州の10の自治体とヴェネト州の一つの自治体は封鎖されています。封鎖とはそれらの自治体の出入り口に重武装の警察の検問が設けられて、ヒトとモノの動きを規制すること。軍隊もスタンバイしています。要するに地域限定の戒厳令、と考えれば分かりやすと思います。

封鎖地域内では学校や図書館を含む全ての公共施設が閉鎖され、レストランやバールなどの歓楽施設も閉まります。開いているのは食料品店や薬店などの生活必需品を扱う店のみ。薬店などは逆に強制開店させられている場合がほとんどです。

その状況はメディアによって逐一報道されます。そのために封鎖地域に近い市町村でも静かに恐慌が起きます。筆者の住まうあたりも「感染爆心地」から遠くないため、パニックになっていると言うのはまだ当たりませんが、完全に穏やかでもありません。

その証拠は友人知己との話の中などに出てくる恐怖感の表出の多さ。またスーパーマーケットなどの状況などにあります。

昨日、食料の買出しに出ました。いつものようにわざと昼食時を選びました。買い物客がぐんと少なくなるからです。店の様子は普段と何も変わりませんでした。ところが精肉売り場に異変が起きていました。

製品棚が空っぽなのです。店員に聞くと、午前中に大勢の客が押し寄せて売り切れになった、と話してくれました。

3軒のスーパーを巡って興味深いことを発見しました。3軒のうち2軒は安売り店なのですが、その2軒の品薄が激しかったのです。

残る1軒は普通の値段(安売りを“売り”にしていないという意味で)の店で、そこも普段に比べてやや品薄の印象はありましたが、棚が空っぽという売り場はありませんでした。

それはもしかすると、貧しい人ほど不安におちいりやすい、ということの証かもしれない、とふと思いました。ネガティブな世情の犠牲になりやすいのはいつも弱者です。だから急ぎ防御の動きに出た、ということなのかもしれません。

筆者は金持ちではありませんが、ひどく貧しいというわけでもありません。普段安売りスーパーに足を運ぶのは、もちろん値段の魅力もありますが、自分が基本的に好奇心の強い人間だからです。

筆者はTVドキュメンタリーの制作やリサーチ、またプライベートの旅などでよくイタリア中を巡り歩きますが、どこに行っても真っ先に市場に足を運びます。市場を覗くのが好きなのです。そこには地域の人々の暮らしの息吹が満ちあふれています。それを感じるのが好きなのです。

スーパーマーケットを巡り歩くのも基本的には同じ動機からです。日常生活の場での行動ですから旅行中の気持ちと純粋に同じではありませんが、筆者を突き動かしているのはいつも人々の暮らしへの関心であり好奇心です。

さて、

「感染爆心地」の近くに住んでいると言いながら、のんびりと状況を読んだり自己分析などをしているのは、事態が切迫していないことの証です。できればこの心のゆとりを保ったまま感染終息の声を聞きたい、と切に願っていますが。。

※オリジナル記事2月24日 なかそね則のイタリア通信 より加筆転載

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